不動産価格は今後どうなる?新型コロナ・オリンピック・不景気

今回のテーマは「不動産価格の今後」についてです。2020年、新型コロナウイルスの流行による「コロナショック」で、日本のみならず世界で大きな混乱が生じました。2020年夏に予定されていたオリンピックも1年延期となるほか、2020年冬には感染者数が急増するなど、今後の見通しが不透明な状況です。

そのような状況の中、不動産価格にも今までとは違う動きが出ています。不動産価格は様々な要因によって影響されますが、2013年アベノミクスによる経済活性化に伴い、概ね上昇基調でした。しかし、2020年のコロナショックによって、これまでとは違う影響も出始めています。

今後、不動産価格はどうなっていくのか。「これから自宅を買いたい」という方の中には、今後の不動産価格について関心の高い方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、不動産価格の基本知識をまとめながら、今後の不動産価格の動きについて解説したいと思います。

そもそも不動産価格はなぜ変動するのか?

今後の不動産価格について考察する前に、そもそも不動産価格はどのような理由で変動するか、その点を整理してみましょう。不動産価格は実に様々な要因によって変動しますが、一言で言えば、不動産価格は「需要と供給のバランス」で決まります。

そして、「需要と供給のバランス」には、様々な要因が関係してきます。以下、主なものを解説します。

変動要因(1)人口動態

人口動態は、不動産価格の今後にも大きな影響を及ぼします。例えば、人気の高いエリアは、住みたいと思う人が多いので不動産の需要が高くなり、不動産価格も高くなります。反対に、人気の低いエリアは、住みたいと思う人が少ないので需要が低くなり、不動産価格は低くなります。

実際、日本国内では東京都内に人口が集中するような動きが顕著であり、その影響から都内、特に都心の不動産は需要が高く、不動産価格は上昇しています。反対に、地方からは人がいなくなるため需要が低くなり、その不動産価格は下がっています。今後も人口動態の変動によって不動産の価格が変動することが予想されます。

変動要因(2)景気変動

景気の変動と不動産価格は密接な関係があることは知られています。事実、好景気になり、平均所得が上がると、物価も上がり不動産価格も上昇します。不動産を欲しい人も増えるほか、所得が高くなった分、不動産の購入や賃貸に使える金額も多くなるので、不動産価格が上がってきます。

近年では、アベノミクスの影響もあり、2013年から景気は上昇基調を続けましたが、やはり不動産価格も上昇を続けていましたが、2020年コロナショックの影響で、今後の不動産価格に影響が出ることが予想されます。

また、逆に景気減退とともに不動産価格が急落した事例として記憶に新しいのがリーマンショック。この時は、不動産に限らずほぼ全業態で経済的な経済活動が減退したものですが、不動産においても影響は顕著でした。

不動産に対する融資がかなり厳しく引き締められ、不動産ファンド、マンションデベロッパーなど、不動産にかかわる景気後退など多方面で影響が出てしまい、不動産価格は大きく下落しました。

変動要因(3)政策

国家や地方公共団体など行政機関による政策も不動産価格に大きな影響を与えます。行政は、金融緩和や金融引き締め、法改正、税制改正などによって、不動産価格をある程度コントロールすることができます。

例えば、1990年代のバブル期、不動産価格の高騰を抑えるために、金融引き締めを政策として行った結果、行き過ぎた不動産価格の高騰は落ち着きました。半面、効果がありすぎて大きく景気を後退させることになりましたが、政策が不動産価格に大きな影響があることが分かると思います。

他にも、相続税法の改正によって、相続税対策が必要な方々が増えた影響で、節税対策としての不動産の購入が流行したこともあり、タワーマンションなど不動産価格の上昇の一因となりました。

金融監督行政の在り方・方針も、今後の不動産価格に大きな影響を与えます。特に投資用の不動産に対する融資は、不動産価格に直結します。金融庁が投資用不動産への融資に消極的・ないし懸念を抱くようなスタンスになると、不動産への融資に消極的になる金融機関も少なくありません。そうすると、不動産の買い手が少なくなり需要が減退、供給過多のため不動産価格が下がることになります。

また、日本の景気を牽引していたインバウンド需要の喚起も政策・国策と言えます。この政策によって、観光収入が見込めるエリアの不動産は堅調な動きをしていました。ホテル旅館の建設・民泊施設の運営などを見据えて、ホテル用地として需要が見込めるエリアの不動産価格は底堅い動きをしていました。今後も政策の方向性によって、不動産価格が大きく変動することも考えられます。

不動産価格 最も影響が大きい変動要因は?

不動産価格の今後は不動産の需給バランスで決まること、また需給バランスは様々な要因に影響されることをお伝えしました。そのため、「人口動態」の今後の予測、「景気」の先行き、今後の「政策」の動きを注意深く観察することが必要となります。ただし、「人口動態」「景気」「政策」は例示列挙に過ぎず、不動産の需給バランスは、「災害」「イベント」「戦争」など様々な要因から影響を受けることになります。

さて、このように変動要因によって影響を受ける不動産価格ですが、これらの中で最も不動産価格に影響を与える変動要因は何でしょうか。人によって答えは違うかもしれませんが、私見としては「政策」を挙げます。

例えばコロナ禍の影響による「東京からの人口流出」。後述しますが、コロナ禍の影響を受けて「東京一極集中」が一部崩れる可能性が出てきました。この傾向が今後も続くと、首都圏の今後の人口分布が変わり、不動産価格の先行きにも影響が出てきます。また、コロナ禍の影響を大きく受けてしまった外食業界では、今後の出店計画を見直す企業も多いでしょうから、不動産価格や店舗賃料の先行きにも大きな影響があると予想されます。

これはもちろん、きっかけは新型コロナウイルスの蔓延です。ただし、それを受けて「緊急事態宣言」や「時短要請」などを国家・地方公共団体が「政策」として打ち出したからこそ、社会的に大きな影響が出たのです。

他にも「政策」が不動産価格に影響を与える例としては公共事業。公共事業には景気浮揚作用があることは知られていますが、人・モノ・カネがその地に集まるため、人口も増え、それによって景気も浮揚されます。そうするとその地域の今後の不動産価格は上がることが容易の想像できます。

また、オリンピック招致も「政策」の一環と言えるかもしれません。オリンピック開催が決まった途端、東京を中心に設備投資が開始、景気浮揚の効果も高く、あっという間に不動産価格は上がっていきました。さらに投資マネーが流入してその流れは加速。もともと人口は東京に集中する流れが続いていましたが、さらに加速した感はあります。

あとは相続税などの税制改正も「政策」ですが、これも不動産価格の今後に大きな影響があります。相続税法の改正で相続税の課税対象者が増えた結果、節税対策としてタワーマンションを購入する人が増えてしまい、マンション価格が上昇する事態が起きたのは記憶に新しいところです。

このほかにも、「観光立国」という政策から、観光業が盛んな地域で雇用が生まれ、不動産価格の値上がりがあったり、「金融緩和」という政策から、余ったマネーが不動産に向いて、不動産価格が上がったりするなど、いくつも例があります。

不動産業者のようにキャピタルゲインを目的とした短期売買をおススメするつもりは毛頭ありませんが、せっかく自分が大きなお金を投資する不動産ですから、長期的にみて値下がり・値崩れが起きない不動産を買いたいものです。そのためにも、世の中の動きと政策の動きを見ながら、不動産購入をしていただきたいと思います。

アフターコロナ 種類別にみる不動産価格の動向

コロナ禍の影響を受けて、マンションや戸建てなどの不動産価格はどのように変化してきたのでしょうか。2020年の不動産価格の動向を「中古マンション」「中古戸建」「新築マンション」「土地」ごとにまとめてみました。

マンション・戸建てなどの住居に関しては、緊急事態宣言が発出された2020年4月は成約件数が大幅に落ち込み、不動産価格(㎡成約単価、成約価格)も下落しました。ただ、その後は徐々に持ち直し、8月あたりで前年と同水準、10月、11月には過去最高水準まで成約件数が伸びている状況です。

一方、土地については、全国「全用途平均」は、変動率が前年比でマイナス0.6%となり、2017年以来3年ぶりの下落に転じるなど、ここ数年の上昇トレンドとは明らかに異なる動きを見せています。新型コロナウイルスの影響に伴う外出自粛や在宅勤務の普及を要因に不動産取引が鈍り、オフィスやホテル、店舗の需要も急失速する中、先行きの不透明感が反映された格好です。

以下、コロナ禍を受けて、どのように不動産価格が推移したか解説します。

不動産価格の動向(1)中古マンション:首都圏

中古物件(マンション・戸建)の不動産価格については、東日本不動産流通機構の「マーケットウォッチ」から成約データを確認することができます。

成約件数については、4月、5月に成約件数が大幅に減少しましたが、その後は徐々に回復。8月は前年(2019年)を超えたほか、10月、11月は1990 年 5 月の機構発足以降、過去最高の成約数となりました。

㎡成約単価も、4月は前年比2.41pt減少していますが、それ以外の月では前年同月比でプラスとなっています。中古市場は不動産価格・成約件数ともに堅調と言えます。

【不動産価格の推移(中古マンション)】

2019年 2020年
成約件数(件) 成約㎡単価(万円) 成約件数(件) 成約㎡単価(万円)
1月 2,667 51.46 2,680 56.29
2月 3,484 53.25 3,749 54.76
3月 4,117 53.96 3,642 54.05
4月 3,440 53.29 1,629 50.88
5月 2,749 51.8 1,692 52.03
6月 3,490 52.75 3,107 53.48
7月 3,233 53.51 3,156 56.03
8月 2,584 53.88 3,053 54.85
9月 3,589 53.79 3,328 55.98
10月 2,771 53.45 3,636 56.04
11月 3,175 55.01 3,620 56.87
12月 2,810 54.89

不動産価格の動向(2)中古戸建て:首都圏

中古一戸建についても、中古マンションと同様の傾向が見られます。4月時点では、成約件数は過去数か月で最低に達しましたが、その後は成約件数も改善。7月には前年と同水準まで回復し、8月~11月まで前年よりも成約件数が伸びています。

成約価格についても、4月5月は大きく価格を下げましたが、6月以降は復調。8月以降は3100万円台~3200万円台で、安定して推移しています。成約件数・成約価格ともに堅調と言えます。

【不動産価格の推移(中古戸建)】

2019年 2020年
成約件数(件) 成約価格(万円) 成約件数(件) 成約価格(万円)
1月 862 2,988 899 3,100
2月 1,080 3,124 1,127 3,169
3月 1,350 3,182 1,309 3,094
4月 1,173 3,111 686 2,722
5月 980 3,183 779 2,668
6月 1,234 3,111 1,173 2,975
7月 1,158 3,168 1,186 3,102
8月 965 3,030 1,175 3,216
9月 1,254 3,091 1,303 3,168
10月 928 3,150 1,316 3,113
11月 1,054 3,087 1,303 3,239
12月 999 3,115

不動産価格の動向(3)新築マンション:首都圏

新築マンションについては、株式会社不動産経済研究所がまとめた統計があります。同社が2020年12月に発表したレポートによると、2020年の不動産価格は前年比で値上がりしています。

「首都圏」全体で見ると、2019年5,980万円から2020年は6,254万円と大きく値上がりしています。地域別にみても、「都下」が微減しているくらいで、首都圏は全般的に値上がりしています。

この動きについて、不動産経済研究所のレポートでは、(1)都心高級物件の人気が相変わらず高値安定していること、(2)郊外も駅地価中心で価格下落の兆候が見られなかったこと、を上げています。

背景としては、自粛によって家で過ごす事が増えた事をきっかけに、住環境を充実したものにしようとする動きが現れているのではないかと推測されます。テレワークの普及に伴って都内から郊外に移り住むケース、コロナをきっかけに所得が増えた「コロナ勝ち組」が都心高級住宅を志向したことが数字に表れていると考えられます。

【不動産価格の推移(新築マンション)】単位:万円

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年※
東京都区部 5,853 5,994 6,732 6,629 7,089 7,142 7,286 7,775
都下 4,238 4,726 4,564 4,985 5,054 5,235 5,487 5,425
神奈川県 4,212 4,384 4,953 5,040 5,524 5,457 5,295 5,498
埼玉県 3,718 3,930 4,146 4,255 4,365 4,305 4,513 4,567
千葉県 3,675 3,879 3,910 4,085 4,099 4,306 4,399 4,555
首都圏 4,929 5,060 5,518 5,490 5,908 5,871 5,980 6,254

※2020年は1月~11月まで

首都圏不動産価格の動向(4)土地

コロナ禍における地価の動向については、国土交通省が発表した2020年7月1日時点の基準地価が参考になります。コロナ禍の影響が数字に出た初めての地価と言えます。

ここ数年の地価の動向は、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)で上昇、地方圏は下落、という傾向でした。それに対し、今回発表された2020年7月1日時点の基準地価では、三大都市圏における地価上昇が鈍化(名古屋は下落)するなど、全体的に地価の上昇幅が縮小するとともに、横ばいあるいは下落へ転化したというのが目立つ変化です。

前半(2019年7月1日~2020年1月1日)
前年度までの景気回復に伴う企業利益の続伸、働き方改革に伴うオフィス環境の拡張・移転などによる主要都市でのオフィスビル需要、空室率の低下・賃料の上昇など、好立地の住宅地、商業地、観光地を中心に地価は上昇・回復傾向は継続。

後半(2020年1月1日~2020年7月1日)
新型コロナウイルス感染症の影響が拡大し、以下のような事象が発生し、地価上昇幅の縮小、横ばい又は下落への転化が起きている。
・ コロナ禍による需要減と先行き不透明感
・ 訪日客激減や外出自粛による店舗やホテルの売り上げ低下、
・ ホテル新設など不動産投資の減退と停滞、
・ インバウンド(訪日外国人効果)の影響が大きかった地域での収益力低下

【変動率:全用途平均(単位:%)】

2018年 2019年 2020年
全国 0.1 0.4 ▲0.6
三大都市圏 1.7 2.1 0
東京圏 1.8 2.2 0.1
大阪圏 1.4 1.9 0
名古屋圏 1.5 1.9 ▲0.8
地方圏 ▲0.6 ▲0.3 ▲0.8
地方四市 5.8 6.8 4.5
その他 ▲0.8 ▲0.5 ▲1.0

全用途平均「全国」は、変動率が前年に比べマイナス0.6%となり、2017年以来3年ぶりの下落に転じています。

三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の平均変動率も、2019年まで上昇していましたが、2020年は前年より上昇なしと伸びは鈍化。

地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では、プラス4.5%といずれも上昇を維持していますが、過去2年間と比べて伸び率は縮小しています。

【変動率:住宅地(単位:%)】

2018年 2019年 2020年
全国 ▲0.3 ▲0.1 ▲0.7
三大都市圏 0.7 0.9 ▲0.3
東京圏 1 1.1 ▲0.2
大阪圏 0.1 0.3 ▲0.4
名古屋圏 0.8 1 ▲0.7
地方圏 ▲0.8 ▲0.5 ▲0.9
地方四市 3.9 4.9 3.6
その他 ▲0.9 ▲0.7 ▲1.0

住宅地「全国」の基準地価は、全国平均変動率が▲0.7%と下落幅が拡大しています。

三大都市圏の平均変動率は、▲0.3%と下落しています。内訳は、東京圏が▲0.2%、大阪圏が▲0.4%と7年ぶりの下落、名古屋圏は▲0.7%と8年ぶりの下落になっています。

地方圏の平均変動率は▲0.9%。近年は縮小傾向だった下落幅が反転し、拡大しています。そのうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の平均変動率は3.6%と8年連続の上昇となったものの、上昇幅は縮小。

地方四市以外の「その他」地域 ではマイナス1.0%と、前年の▲0.7%からさらに下落幅が拡大し、地方圏の二極化は依然として続いていることがうかがえます。

【変動率:商業地(単位:%)】

2018年 2019年 2020年
全国 1.1 1.7 ▲0.3
三大都市圏 4.2 5.2 0.7
東京圏 4 4.9 1
大阪圏 5.4 6.8 1.2
名古屋圏 3.3 3.8 ▲1.1
地方圏 ▲0.1 0.3 ▲0.6
地方四市 9.2 10.3 6.1
その他 ▲0.6 ▲0.2 ▲1.0

商業地の全国平均は▲0.3%と前年度までの上昇傾向から一転、下落に転じています。

「三大都市圏」でみると0.7%と上昇しているものの、伸び率は前年5.2%から大きく鈍化。東京圏は1.0%、大阪圏は1.2%と、東京圏、大阪圏で上昇を継続していますが上昇幅が縮小、失速しています。一方、名古屋圏は▲1.1%と、平成24年以来8年ぶりに下落に転じています。

「地方圏」の変動率は▲0.6%と下落に転じています。2019年は28 年ぶりに上昇に転じていましたが、下落に戻ったようです。

なお、地方圏のうち、地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)の平均変動率も、8年連続の上昇ながら、2019年の10.3%から6.1%に上昇率は縮小。地方四市を除くそのほかの地域の平均変動率は▲1.0%と、下落幅は昨年の▲0.2%から大きくなっています。

今後の不動産価格はどうなるか?

ここまで不動産価格について大まかにまとめてきましたが、今後の不動産価格はどのように変化していくのでしょうか。今後の不動産価格の動向を予測するうえで、注目しておきたいポイントをまとめました。

今後の不動産価格(1)人口動態 東京都からの人口流出

総務省が2020年12月に発表した住民基本台帳人口移動報告によると、2020年11月の東京都の転出者数は2万8077人と前年同月比で19.3%増えました。逆に転入者数は2万4044人と6.8%減少し、5カ月連続で転出者の方が多い転出超過となりました。転出者数の前年比での増加率は47都道府県で最も大きく、東京を離れる動きが続いていると言えます。

そもそも東京都は1997年以降、年間の転出入動向は一貫して転入超過であり、少子高齢化が進む中、いわゆる「東京一極集中」が加速していましたが、コロナショック以降、「東京一極集中」の流れが崩れる格好になっています。

この動きの背景としては、コロナ禍が集中する東京からの退避、コロナ禍でテレワークなどが普及に伴う都心から郊外へ転居などが要因にあると考えられています。いずれにしても、これまで規定路線であった「東京一極集中」の流れを止めたことは注目に値します。

それでは、東京から流出した人口がどこに流れているのか。逆に転入が増えたのが周辺の埼玉、千葉、神奈川の3県です。この動きに連動するように、3県の不動産価格は上昇傾向です。今後もこのような動きが継続すると、東京の不動産価格の下落にもつながるほか、郊外の不動産価格が値上がりしたり、価格の下落が抑制されたりすることが予想されます。今後の不動産価格を予測するうえで、人口動態は要注目です。

今後の不動産価格(2)働き方・住まいの選び方の変化

今回のコロナショックは、「働き方」と「住まいの選び方」にも大きな影響を与えています。自粛解除後も多くの企業がテレワークや分散出社を推奨し、大人数での商談や会食は控える傾向が続くなど「働き方」が変わってきています。そうすると、「住まいの選び方・価値観」にも変化が出てきます。

例えば「家の広さ」。テレワークやオンライン会議に対応できる、ワークスペースを備えた「広い家」への需要が高まっており、郊外や地方の戸建てや中古マンションに注目が集まっています。これまで「通勤前提」で住まいを選んでいた層が、「広さ」「経済性」も重視するようになり、エリアの選び方も変わってくる可能性があります。

「経済性」についても、新築マンションに手が届かない層が「中古マンション」を購入する傾向も強く、実際、中古マンションは過去最高水準と言っていいほど活況を呈しています。今後は、通勤1時間前後のターミナル駅など利便性が高く価格がリーズナブルなマンション・戸建の人気が高まっていく可能性が高いと推測する専門家も多いようです。

今はまだ通勤場所の近郊が人気ですが、今後テレワークが本当定着してくると、いわゆるリゾート地に移住して仕事をする層も増えてくると思います。そうすると、不動産価格にも少なくない影響が出てきます。今後の働き方の変化も注目ポイントの一つです。

今後の不動産価格(3)2022年問題と地価下落の懸念

次にポイントとなるのが「2022年問題」。2022年問題とは、2022年を目途に宅地が急増し、今後土地の価格の下落や空き家が増える可能性があるという問題です。

宅地が増えると予想されるのは、1992年施行の改正生産緑地法が背景にあります。同法により、市街地にある農地は宅地よりも、固定資産税が大きく減免されていました。30年間にわたる営農義務が切れることで、大半の生産緑地は自治体での買い戻しが可能になります。

そうなると、今後、大量の農地が宅地転用され売却されることが予想されます。戸建てを買いたい人は、土地が安くなる可能性があります。

今後の不動産価格(参考)コロナショックとリーマンショックの相違

今回のコロナショックと同様に、社会的に大きなインパクトのあった社会混乱と言えば、2008年に勃発したリーマンショックが思い出されます。

事実、急速に新型コロナウイルスの混乱が報道され、緊急事態宣言が発令されたときは、どこまで経済混乱が広がるか、過去の不景気の代表格「リーマンショック」と比較して論じる記事や報道が増えていました。

リーマンショックとは、2008年9月にアメリカの有力投資銀行である「リーマンブラザーズ」が経営破綻し、それをきっかけに世界的な株価下落・金融危機が発生したことを指します。

アメリカ経済だけでなく世界経済にも大きな混乱をもたらした与えたリーマンショックの影響は日本にも波及しました。当時の日経平均株価は約1万2千円でしたが、そこから1か月程度で株価が大暴落。10月後半には一時6,000円台(正確には6,994円)を記録しました。

リーマンショック時には、上場企業を含む約1万5千件の企業が1年のうちに倒産したと言われていますので、その影響・混乱がいかに大きかったかが分かると思います。今回テーマとなっている不動産価格についても、地価が下落したほか、投資用不動産で、価格の下落が進みました。

さて、そのリーマンショックと比べて今回のコロナショックはどのような影響を及ぼしているのか。あくまでも2020年12月現在のところですが、今回のコロナショックは、リーマンショックほどの経済混乱は発生していないように見えます。

その要因の一つが、金融システム。バブルの崩壊や、リーマンショックでは金融システムが大きなダメージを受けたために回復に非常に時間がかかってしまった事例があります。一方、今回のコロナショックでは、金融システムのダメージが非常に少なく、資金の供給が円滑におこなわれているため、今後は比較的早めの回復が見込まれているようです。

また、その他の要因として、コロナ勝ち組業態の存在があります。航空業界、飲食業、宿泊業など、大きく業績を落とした一方、通信販売業、フードデリバリー業、ドラッグストアなど、大きく業績を伸ばしたところがありました。経済全体としてみれば大きくマイナスでしょうが、他方で好調となった業態もあり、何とかバランスを取っているところもありそうです。

その他にも、割と早い段階から「持続化給付金」「家賃支援給付金」などの経済支援策が打ち出されたことも、コロナショックの混乱を何とか持ちこたえている要因と言えるかもしれません。今後の経済支援と不動産価格に先行きが注目されます。

今後の不動産価格 (参考)オリンピックと不動産価格の動向

2021年に延期となった東京オリンピック。東京オリンピックの終了後、不動産価格の先行きはどうなるのでしょうか。

振り返ると、2013年に東京オリンピック開催が決まりましたが、その後、東京を中心とした不動産価格は上昇を続けました。これは、オリンピック需要だけでなく、東日本大震災からの復興需要に加え、アベノミクスによる経済振興策も相まった結果と考えられますが、いずれにせよ不動産価格は大きな上昇トレンドとなりました。しかし、東京オリンピックも開催後はどうなるのか、不動産市場の行く末に不安を抱く人も多いようです。

不安に思う背景の一つが今後の景気の後退懸念。オリンピックに向けて各種建設需要が多かったものの、それらが一服すると仕事がなくなり景気が冷え込んでしまうのでは、と心配する声もあります。実際に1964年東京オリンピックでは、開催決定後からオリンピック開催時期にかけて景気の大きな上昇がありましたが、オリンピック終了後、「昭和40年不況」と呼ばれる景気後退を経験しています。同じようなことが今回の東京オリンピックでも起こるかもしれないと危険視している方も多いようです。

また他の懸念材料として、海外投資家の動向を挙げる専門家もいます。現在、日本の不動産に多くの海外投資家が投資していますが、オリンピックで日本経済のピークが来ると予想した場合、今後一斉に日本の不動産を売却が行われる可能性が懸念されています。一斉に売却物件が増えると、不動産価格は需要と供給のバランスが崩壊し、値崩れする可能性もありそうです。

一方、オリンピック終了の影響は限定的ととらえる専門家も多くいます。

根拠としては、1996年アトランタオリンピック・2000年シドニーオリンピック・2004年アテネオリンピック・2012年ロンドンオリンピックの4大会において、開催後に住宅価格の下落は見られなかった事実があります。このことを引き合いに出して、今回の東京オリンピックでも住宅価格など不動産価格の先行きには影響が少ないと判断しているようです。

また、国内の設備投資がオリンピック終了以降も続くことがあります。2025年 大阪万博開催、2027年 リニアモーターカー開通をはじめ、老朽化したインフラの再整備も迫っているため、建設需要が国内で尽きることはなく、これらがオリンピック後の経済を牽引してくれると期待されているようです。

実際ところは、オリンピックが終了してみないとわからないですが、今後の予測として、今のところ「特に影響はない」という見解と「不動産価格は下落する」と予想する見解が分かれているようです。

今後の不動産価格 まとめ

今回は「不動産価格の今後」について解説しました。

・不動産価格は「需要と供給のバランス」で決まる。需給のバランスは、人口動態、景気変動、政策などによって左右されるため今後の不動産価格の予測には、これらを注視すること。

・コロナ禍を受けて不動産価格にも例年にない動きが目立つ。今後、このトレンドが継続するか注意が必要。

・中古マンション・中古戸建の不動産価格は4月・5月に下落したものの、その後は回復し安定基調。2020年秋以降は成約件数も前年より多く、不動産市場は堅調と言える状況。

・新築マンションの不動産価格も安定推移。首都圏は「都下」を除き、不動産価格の値上がりが見られ、市場の先行きは堅調と言える。

・2020年基準地価は2019年から下落基調とみられる動きがある。三大都市圏は上昇幅の減少(名古屋は下落)、地方圏でも地方四市を除いて下落。

・今後の不動産価格を占ううえで、東京からの人口流出、働き方の変化、2022年問題は注意が必要。

まだまだ先行きが不透明ではありますが、今後不動産を買おうと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。