焼肉「牛宮城」の家賃は適正?不動産投資のプロが見た家賃の妥当性

今回は、2022年3月に渋谷センター街でオープン予定の焼肉店「牛宮城」ついて、主に「家賃の妥当性」という観点から解説します。

「牛宮城」は、人気YouTuberヒカル氏と、タレントの宮迫 博之氏が共同経営する予定であった焼肉店であり、当初はヒカルが広報担当、宮迫さんがメニューや店舗設営といった実務担当という分業体制だったようです。

ところが、オープン前の試食会でヒカル氏から、味・品質に関する指摘がありオープンが延期。その後、ヒカル氏の事業撤退、資金繰りのための苦境、新経営体制の構築の模様が、YouTubeで配信され話題となっています。

さて、その中で注目されているのが牛宮城の家賃。月の家賃が300万円(のちに280万円と発表あり)と噂され、「高過ぎる」とネットで叩かれるようになりました。

果たして、家賃300万円(280万円)というのは、焼肉店としては高すぎるのか、あるいは妥当なラインなのか。このあたりについて検証、解説してみたいと思います。

高級焼肉店「牛宮城」 なぜ話題になっているのか?

牛宮城は当初2021年10月オープンを予定していましたが、オープン直前の試食会でヒカルが求める味の品質に達していなかったという指摘がありオープン延期が決定。その模様が動画配信されたことから、ネット界を中心に大きな騒ぎとなりました。結果として、ヒカル氏が事業から撤退。

宮迫氏のチャンネルで2022年1月15日に公開された動画「【Part④】最終決戦!黒幕登場【WinWinWiiin 宮迫博之編】」によると、宮迫氏の活動に協力しているノーブルプロモーション代表取締役の若林和人氏、Guildの高橋将一代表が参画していることが発表されました。ちなみに、店の持ち株の比率は、若林氏が50%、宮迫氏が45%、高橋氏が5%とのこと。

この動画では、話題となっている高額な家賃についても触れられており、牛宮城の家賃が280万円であるとしたうえで、「注文用のタブレットの中にスポンサーさんの名前を入れる。それで家賃分は大体ペイできる」などと説明があり、2022年3月のオープンに向けて準備が進められているようです。

今回の牛宮城の件は、世間から相当な注目を浴びており、筆者も興味深く拝見しているのですが、今回はこれを不動産投資、店舗経営の点から考察し、家賃の妥当性について考えてみたいと思います。

焼肉店の開業費用を知る 適正家賃は売上の10%?

まず、焼肉店の開業にどのくらい費用が掛かるのかを知るところからスタートです。厨房器具・店舗用什器専門通販サイト『テンポスドットコム』で参考になる記事がありました。

開業支援特集 焼肉屋編 Step02. 事業計画

とても分かりやすく詳細なので、以下で同記事を直接引用させていただきました。費用以外にも大変情報がまとまっているので、興味のある方はぜひ上記の記事をご覧下さい。

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(焼肉屋開業にかかる費用)

飲食店を開業するためには、物件取得費用、内装工事費用、機器やテーブル・椅子などの備品、運転資金、販促費などの費用が必要です。

焼肉屋は、1席あたりの面積も広めであることが多く、またそれぞれの席に肉を焼くためのコンロや七輪、網などを用意しなければなりません。 そのため、焼肉業態の開業資金は1000万円から3000万円程度と他の飲食業態と比べると高額になりがちです。

以前焼肉屋だったお店をそのまま使う居抜き店舗や、家賃を抑える、機器を中古品にしたりリースにするなどの抑える方法をとり、費用を抑えることは可能です。ご自身のやりたいお店や資金的な制限などを考慮して、物件探しや事業計画作成を行っていってください。

(開業資金)

前述したとおり、開業資金は1000~1500万円程度は必要となってきます。

(物件取得費)

【家賃】
売上の10%以内が目安と言われています。

仮に家賃が20万円であれば、目標月商は140~200万、年商目標は1700~2400万円程度となります。
賃貸物件を借りる場合、毎月の家賃は大きなコストになります。家賃を支払えずに閉店する店舗も多いので、特に店舗の立地は慎重に選ぶべきでしょう。
簡単な売上計画を立ててから、毎月の採算シミュレーションをした上で、適正な家賃を見極めることが大切です。

【物件取得費】
初月分の賃料
初月分の管理費
敷金/保証金 : 家賃3~10ヶ月分
礼金    : 家賃0~2か月分
仲介手数料 : 家賃1か月
その他 : 造作譲渡代(居抜きの場合)、家賃保証委託料(その他)
1~5が必要です。6は場合によります。

【内装工事費】
内外装工事費(スケルトンの場合)・・・40~100万円/坪程
改装工事費(居抜きの場合)・・・20~50万円/坪程
※面積が大きくなるほど坪単価は低くなります。
屋外の排気ダクト工事・・・200~300万
設計費・設計管理費・・・3~10万円/坪程

【厨房機器・備品代】
厨房機器+設置費・・・15~25万円/坪
※メニューなどによる
無煙ロースターや各テーブルの吸排気設備 40~50万/坪
イス・テーブル・・・1席あたり1.5~2.5万円程
備品代(調理道具、食器、その他備品)・・・50~200万円程
その他(空調設備・PCなど)・・・100~300万円程

【初期仕入代】
およそ20~100万円かかるのが平均的ですが、食材費や酒類にこだわりがある場合は、さらに高額になる可能性もあります。

【宣伝広告費】
(チラシ、ビラ、HP、広告サイト、レセプション、オープン告知など)・・・20~100万

【運転資金】
お客様が定着し軌道に乗り始めるまでは、一般的に半年以上かかると言われています。
そのため運転資金は、最低でも6ヶ月分以上を用意しておくようにしてください。

【人件費】
人件費は店主の給料(生活費)を除いた金額です。一般には30%未満に抑えるとよいとされています。
人件費率は以下の式で求めます。

人件費率 = 人件費 ÷ 売上
正社員・アルバイトを3人雇ったとしたら、月にかかる人件費だけで50万円~100万円はかかります。

【原材料費】
一般には30%程度が目安と言われています。
下げ過ぎると、顧客満足度の低下につながる可能性があり、上げ過ぎると、よほど回転率が高くないと収支が成り立たなくなる可能性が大きくなります。

【水道光熱費】
水道光熱費は、地域差や厨房面積の占める割合によりますが、7~10%が適正範囲です。ただし、店の営業時間や使用時間によって光熱費に差が出ます。業態によってはガス代が3〜4倍程度違ってきたりと、かなり差がある経費といえます。
ご自身の修行されている店舗の料金を参考に見積もってみてください。

【借入金返済】
日本政策金融公庫やその他金融機関などへの借入金の返済費が毎月かかります。

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ここまで引用させていただきましたが、これは一般的な焼肉店の例。高級路線で売り出そうとしていた牛宮城は内装工事費などがかなり大きかったと思われますので、オープンさせるに当たって、多大な費用が発生していることは容易に見て取れるでしょう。

さて、本記事のテーマである家賃の妥当性、という点からいえば「売上の10%以内」というのが一つの目安になると思います。牛宮城の売上は月280万円と言われていますが、その妥当性についてもう少し検証してみましょう。

焼肉店の経営指標 牛宮城の想定売上はどのくらい?

さて、ここで牛宮城の売り上げはどのくらいの水準が見込めるのか、机上検討になりますが少し考えてみます。大手精密機器メーカーCASIOが運営する『HANJO TOWN』というサイトがあります。この中で、「焼肉店の経営指標」という記事があるのですが、その中で、売上・客数を基に、経営指標のモデルケースが掲載されています。

【焼肉店のモデルケース 30坪40席のお店を想定】
売上 6,000,000円
客数 1,579人
客単価  3,800円
人件費率 25%
原価率 35%
営業利益 480,000円(売上の8%)

同記事によると、売上600万円に対して営業利益48万、営業利益率8%というのは、そこそこ優秀な水準とのことです。

(牛宮城の想定売上と適正家賃は?)

さて、それでは牛宮城はどのくらいの売上になるのでしょうか。あくまでも机上計算であり、筆者の勝手な試算です。実態とは異なるとは思うのですが、何卒ご容赦ください。

大手グルメレビューサイト「食べログ」によると、牛宮城は「予算6,000~7,999円」、「席数80席」とあります。前述のモデルケースと比べると、客単価が1.5~2倍程度、席数も2倍程度となります。仮に客数が2倍、客単価7000円と設定すると、以下のようになります。

【焼肉店のモデルケースを牛宮城に当てはめると:80席想定】
売上 6,000,000円 →22,106,000円
客数 1,579人 →3,158人
客単価  3,800円 →7,000円

こうしてみると、稼働率と客単価を適正水準で維持できれば、牛宮城の月間売上は、おそらく2200万円~2400万円くらいが妥当なところではないでしょうか。(ハコが大きい分、集客は大変ですが、動画配信等、特殊な集客手段があればなんとかなるのかもしれません)。

そして、適正家賃を「売上の10%以内」とするならば、牛宮城の適正家賃の上限は220万円~240万円くらい、ということになります。牛宮城の実際の家賃は280万円とのことですから、40万円~60万円程度高いと言えるでしょう。

(「渋谷センター街」というマーケットの付加価値は?)

渋谷センター街は人通りが大変多く、飲食店経営にとっては魅力的に見えますが、高級焼肉店としては、客層・客単価で少々ミスマッチがあるかもしれません。

ブランド和牛を取り扱う会員制レストラン「WAGYUMAFIA」を経営する実業家の堀江貴文氏は、渋谷センター街というマーケットと高級焼肉店のミスマッチを次のように指摘します。

「(高級焼き肉を食べるような)お金を持っている人が、わざわざ渋谷のセンター街に行って高級焼き肉を食べるかといったら、なかなか難しい」

堀江氏の指摘のように、高級焼肉店であれば、六本木や麻布十番などのエリアの方が、客層が合うと思います。そうすれば、客単価が1万円を超えるような設定も無理がないと思います。

筆者としては、「高級路線」でやるなら六本木・麻布エリアで、「渋谷センター街」でやるならもう少し低価格路線で、というのが本音です。

以上、今回は話題の「牛宮城」について、家賃の妥当性という観点から記事を書かせていただきました。もしかすると、不動産屋の観点では想像できない戦術があるかもしれませんので、今後どのように推移していくか、引き続き注目したいと思います。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。