特に昨今、中小企業の経営者を中心に関心が高まっているM&A。
いわば副業的に収入の柱を増やすことが出来るM&Aに興味を持つ社長さんも多いと思います。
中小企業庁によると、2017年の日本におけるM&A件数は過去最高を記録。
特に中小企業のM&Aが活発になっているとのことです。
〔1〕M&Aの件数
我が国企業のM&Aの件数について(株)レコフデータの調べによると、2017年に3,000件を超え、過去最高となっている(第2-6-6図)。
あくまで公表されている件数となるが、我が国におけるM&Aは活発化していると推察される。
〔2〕中小企業のM&A動向
次に中小企業におけるM&Aの実施動向について見ていく。
中小企業のM&Aの実施状況は、公表されていないことも多くデータの制約も大きい。
そこで、中小企業のM&A仲介を手掛ける東証一部上場の3社((株)日本M&Aセンター、(株)ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ(株))の成約組数について見てみたものが、第2-6-7図である。
中小企業のM&A成約件数は、2012年に比べて2017年では3倍超となっている。
後述のアンケート結果にもあるとおり、中小企業のM&Aにおいてはこうした仲介機関を介さないケースも多く見られるが、傾向として増加していることと推察される。
(出典:2 M&Aの現状 – 中小企業庁 – 経済産業省)
事業意欲が高い経営者にとっては、新規事業への参入、多角化、規模の拡大をスピーディーに進めることが出来るM&Aは、今後ますます重要な経営課題になると思います。
そこで、今回はM&Aについてざっくりとまとめました。
M&Aでも、今回は会社を買い取る側の視点で情報をお伝えいたします。
M&Aはどんなメリットがあるの?
一般的に、M&Aのメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
1. 取引網・店舗網の拡大による「スケールメリット」
買収対象企業が保有する不動産や設備といった有形の資産はもちろんのこと、技術、ノウハウ、取引先、顧客基盤、流通網などといった無形の資産を取り込むことで買手側の企業は事業規模の拡大を図ることができます。
少子高齢化による人口減で国内市場が縮小する中、限られたパイを奪い合うため、マーケットの寡占化は今後も進んでいくはずです。
持続的な成長を維持するためにも、事業拡大は重要な経営課題になります。
事業の規模が大きいというのは、それだけで大きなアドバンテージです。
一般的に、取引量が大きくなることで取引先に対する交渉力が強化され、様々な仕入コストを引き下げることができ、メーカーであれば設備の稼働率を引き上げます。
また、小売業やサービス業であれば、知名度やブランド力の向上は集客力に大きく寄与することでしょう。
そうはいっても、取引先を一から開拓するのは容易ではありません。
その点、M&Aであれば、買収対象企業がすでに構築した取引先やマーケットをそのまま取り込むため、一気に事業拡大を図ることができます。
M&Aによる事業拡大の一例として、流通大手のイオン株式会社が同業で経営不振に陥っていた株式会社ダイエーの店舗網を取り込むことで、一気にシェアを伸ばしたケースがあります。
また、日産自動車株式会社と三菱自動車工業株式会社との資本提携も、買手側の日産自動車が事業規模を拡大することで競合が激化する自動車業界でのスケールメリットを狙ったものだといわれています。
2. 事業の多角化
事業環境が厳しくなる中、収益源を安定的に確保するためには事業の多角化が必要とされることもあります。
業種や事業内容の異なる企業をM&Aによって買収することで、これまで自社にはなかった分野への参入や川上から川下へのバリューチェーンの拡大が図れます。
例えば、ネット通販大手の楽天株式会社は、「ネット事業」というキーワードにマッチする異業種企業を次々と買収しました。
旅行業や銀行・クレジットカードなどの金融業にも進出して事業の多角化を推進しています。
3. 新規事業参入
自社で一から新規事業に参入しようとすると、さまざまなリスクがつきまといます。
上記の事業多角化とも関連しますが、M&Aによってすでにある分野で実績を上げている企業を買収することで、新規事業参入へのリスクを軽減できます。
事例として、通信大手の株式会社NTTドコモが、有機・低農薬野菜宅配サービスの「らでぃっしゅぼーや」(2018年2月にオイシックスドット大地株式会社へ売却)や音楽・映像ソフト販売の「タワーレコード」など、一見無関係に見える異業種企業を次々と買収・子会社化し、新規事業への参入とサービスの多角化を図った事例があります。
4. 技術力向上(既存事業の強化)
新規事業だけではなく、自社の既存事業の強化を図るためにM&Aで他社の技術を取り込む事例もあります。
例えば、パナソニック株式会社が三洋電機株式会社を買収したケースです。
当時世界最高水準の性能を誇っていた「HIT太陽電池」を持つ三洋電機を買収することで、自社事業の中でも弱みであったリチウムイオン電池や太陽電池部門の強化を図った事例と考えられます。
5. 事業成長に必要な時間を買う
新規事業を立ち上げるにはマーケティングや技術開発、従業員の教育まで多くの時間やコストがかかります。
一方M&Aで、すでに出来上がっている状態の事業や企業を買収すれば、こうしたコストや時間を削減できます。
企業買収には多額の資金が必要となりますが、こうした事業を育てるための時間やコストを削減できるという点で、「時間を買う」というメリットがあるのです。
このように、買手にとってメリットはさまざまですが、M&Aは経営に必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ)がある程度そろった状態で企業を買収するため、時間と労力を大幅に削減することが可能になります。
会社っていくらで買えるの?
それでは、ぶっちゃけた話、会社はいくらで買えるものでしょうか。
必ずしも当てはまるわけではありませんが、会社の価格の目安は“純資産+営業利益の3~5倍”です。
会社を売買するときの価格は、純資産(資産からすべての負債を差し引いた額)だけではなく将来発生するキャッシューフロー(利益の額)も加味して判断するケースが少なくありません。
キャッシュフローは、営業利益に利息の受払いや減価償却などを加減して計算しますが、大きな設備がある会社を除けば、営業利益をキャッシュフローに置き換えてイメージするのがいいかと思います。
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「DCF方式は使わないの?」という声が聞こえてきそうですが、DCF方式による企業価値評価は、本来「所有と経営が高度に分離した近代的経営」を大前提としています(いわゆる上場企業など)。
そのような中で、より客観的で合理的に、会社の価値を利害関係者に説明できる論理的枠組みがDCF評価です。
経営者が利害関係者(特に外部株主)に、大きな説明責任を負っている会社であることが前提です。
これに対して、今回テーマにしているのは、中小企業のM&A。
この場合、ほとんどはいわゆる同族経営(株主のほとんどを主要経営陣や親族が保有している)の小規模会社のM&A。
買い手もまた、同じような同族経営の場合がほとんどです。
このように、「所有と経営が一致している」ケースでは、株主への説明責任はそれほど大きくありません。
買収価格は当事者が合意すれば別になんでも良いわけです。
そのような中で、これまで経営してきた実績から今後3~5年くらいは今の利益水準の維持はできるはず、という経営者の一般的な心情に基づいて、純資産+営業利益3~5年分というような評価をすることは創業者同士の肌感覚として受け入れやすいようです。
買取代金以外にどんな費用がかかるの?
事業の買収には、買収金額以外にもデューデリジェンスの報酬や仲介手数料などの費用を見込んでおく必要があります。
中でもデューデリジェンスにかかる報酬は取引の成否にかかわらず必要になります。
デューデリジェンスとは、M&A取引の最終的な意思決定を行うに際して、買収候補企業から依頼を受けた公認会計士や弁護士などの専門家が、一定期間中に、対象会社ないしは事業等に対する実態を把握し、問題点の有無を把握するために行う調査のことです。
デューデリジェンスの報酬はスモールM&Aでも50~300万円程度は考えておく必要があります。
ただ、その実施の是非と内容についてはアドバイザーと検討するべき項目なので、金額はあくまでも目安と考えてください。
次に、M&Aアドバイザーへの報酬は多くの場合成功報酬で必要になってきますが、M&A成立時に発生する成功報酬は、株式の譲渡価格に一定の手数料率を乗じて計算します。
スモールM&Aの場合支払総額で買収額の5~8%の枠内に収まれば相場と考えて差し支えないでしょう。
あとは、スモールM&Aの場合はそれほど大きな額になる事はありませんが、主に買収交渉やデューデリジェンスの際に専業で動く人員が発生する場合はそのコストや仕事のやりくりを予め定め、把握しておくことが望ましいと言えます。
M&Aの流れ
次にM&A完了までの流れをまとめました。(出典:日本M&Aアドバイザー協会)
(1)売り手とM&Aアドバイザーとの契約:
まずはM&Aアドバイザーとの個別面談から始まります。
双方納得がいく様であれば、機密保持契約(NDAやCAとも呼ばれる)とファイナンシャルアドバイザリー契約(アドバイザーが行う業務の範囲、報酬に関する取り決め、直接交渉の禁止などが明記されている)の締結を行い、正式にM&Aアドバイザーとして就任します。
(2)提案資料の作成:
売り手経営者はM&Aに必要となる決算書などの一連の資料を提出し、M&Aアドバイザーはそれらの資料と経営者との面談でのヒアリング内容をもとに買い手に対する提案資料の作成を行います。
(3)ネームクリアの確認:
買い手に打診をする前には、必ず売り手側に経営において重要な資料を渡しても良いかの確認(ネームクリアの確認)を行います。
これは、売却についての情報が広まり、取引に影響をきたしたり、従業員が経営陣に不信感を抱き退職してしまったり、金融機関に知られ融資の引き上げが発生するというリスクがあるからです。
(4)買い手とM&Aアドバイザーの契約:
買い手にとっての第一歩も、まずはM&Aアドバイザーとの個別面談から始まります。
双方納得がいく様であれば、機密保持契約(NDAやCAとも呼ばれる)とファイナンシャルアドバイザリー契約(アドバイザーが行う業務の範囲、報酬に関する取り決め、直接交渉の禁止などが明記されている)の締結を行い、正式にM&Aアドバイザーとして就任します。
(5)ノンネームシートでの提案:
買い手の希望条件に見合いそうな案件があれば、まずは簡易的な売却情報が掲載されたノンネームシートでの提案を行います。
(6)買い手による検討:
買い手が興味を示したら、M&Aアドバイザーは、ネームクリアの確認を売り手に対して行います。
売り手からネームクリアの確認が取れたら、M&Aアドバイザーは会社名や財務内容などの重要情報を渡し、買い手側で検討に入ります。
(7)トップ面談の実施:
買い手側が買収への興味を示し、双方先に進めたいという事であれば、経営陣同士の「トップ面談」を行います。
トップ面談では、双方質問をしあい、経営方針などに関する疑問を解消しあいます。
(8)「意向表明書」の提示:
トップ面談で互いに納得できる相手であれば、M&Aアドバイザーが双方の間に立って、条件面の調整をしていきます。
これと並行して買い手は「意向表明書」といわれる買収方法、買収価額などの提案条件が書かれた資料を提出します。
(9)「基本合意契約書」の締結:
売り手がその内容に合意した場合、これまで売り手、買い手間で合意している条件などが明記された「基本合意契約書」を締結します。
通常、「基本合意契約書」には独占交渉権の付与やその交渉期間なども記載されます。
(10)デューデリジェンスの実施:
基本合意が締結されたら、買い手サイドの公認会計士や弁護士などによるデューデリジェンス(財務調査、法務調査)を行い、リスクの洗い出しやそのリスクの解消方法などを調査します。
買い手は専門家から提出されるデューデリジェンスのレポート結果を待って、最終的に当該M&A取引を実行するかしないか、あるいは条件面の再交渉に入るかどうか等の判断を行います。
(11)「最終譲渡契約書」の締結:
これらの一連の作業が無事終了し、取締役会や株主総会での承認が得られ、買い手、売り手ともに、最終的にM&Aを実行することが決定した後、最終的な条件や内容を取り決めた「最終譲渡契約書」を締結します。
(12)クロージング:
「最終譲渡契約書」の締結によってM&Aに関する契約そのものは完結しますが、株式譲渡などの場合、実際にはその後、経営者の個人的な目的で購入された資産(たとえばベンツ、クルーザーなど)を経営者が対象会社から買い取るなどの諸手続を進めることが必要となります。
これらの作業がすべて終了し、譲渡対価の決済および株券や会社代表印の引渡しなどをすべて完了することをクロージングといいます。
よって、契約日からクロージングまでは一定期間をあけるのが通常ですが、契約日までにクロージングに必要な手続きがすべて終了している場合、あるいは契約日後に必要な手続は適正に完結させることが前提で、契約日と同時にクロージングを実施する場合もあります。
M&Aの注意点
最後にM&Aの注意点。
1. 売手企業との融合がうまくいかない
社風や従業員への待遇が異なる企業同士が統合することで、文化の違いが露呈し、融合までに時間がかかる可能性があります。
2. 想定していたシナジーが生まれない
両社間の溝が解消されなかった結果、元々所属していた企業ごとに派閥が生まれ対立するなど、想定していたシナジー効果が発揮できないこともあります。
3. 優秀な人材の流出
統合後の労働条件の変更や、統合による派閥争い、社内のいざこざなどによって、優秀な人材が外部に流出してしまう可能性があります。
買収対象企業でエースとして活躍している人材やキーパーソンに今後の活躍を期待する場合は、早めにコンタクトをとり、買収後の待遇や将来的なビジョンについてきちんと話し合いなどをしておくことが大切です。
4. 簿外債務・偶発債務
買収交渉後に貸借対照表上に記載されていない簿外債務が発覚してもめるケースがあります。
また先頃の鴻海精密工業によるシャープ株式会社の買収では「偶発債務」の行方が焦点の一つになりました。
訴訟などにより、今後発生する可能性がある債務を偶発債務といいますが、これら買収先企業の財務リスクを事前に把握することがM&Aの基本となります。
このように買手側にとってM&Aは不確定要素もあり、想定通りに進まない可能性があることを念頭に入れておきましょう。
買い手のリスクを軽減させる表明保証とは?
M&Aにおける表明保証とは、契約当事者が、一般的には株式譲渡契約書等の締結日やクロージング(譲渡日)等において、契約当事者自身または対象会社に関する法務、税務、財務、労務、事業内容等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証することです。
(表明保証の機能)
①契約の解除
株式譲渡契約書等では、一般的に相手方に表明保証違反がないことを株式譲渡実行の前提条件とします。
表明保証違反があった場合、当該取引は実行せず、株式譲渡契約書を解除することが出来ます。
②補償の提供
株式譲渡実行後において、契約当事者が、表明保証した事項が真実でなかったことに起因して相手方に損失、損害、債務、責任または費用(弁護士報酬及びその他の諸費用等)が発生した場合には、損害賠償請求に応じなければなりません。
株式譲渡事後のリスク回避のためにも、株式譲渡契約書において「表明保証条項」の記載は必須とお考えください。
ただ、下記でご紹介するように、「表明保証条項」を入れたとしても万能ではありません。
専門用語や、契約書独特の理解しづらい文言も多いため、表明保証条項についての検討・交渉は、M&Aの専門家か弁護士に相談したほうがよいでしょう。
裁判例
表明保証違反が問題となり、売主が損害賠償責任を負った事例と負わなかった事例です。
①表明保証違反により損害賠償請求をされた売主が、買主もまた重過失によって気付かなかったため、売主は損害賠償責任を負わないと主張した事例(東京地裁平成18年1月17日)
(事案)
対象会社の全株式の株式譲渡契約において、その譲渡代金は、対象会社の簿価純資産額を基に計算されており、売主買主間で、対象会社の財務諸表は、一般的に認められた会計基準に従って作成されていることを表明保証し、この表明保証した事項が真実でなかったことに起因して買主に損害が発生した場合には、売主が損害を補償することに合意していました。
しかしながら、対象会社は、元本の弁済に充当していた和解債権についての弁済金を利息に充当し、同額の元本についての貸倒引当金の計上をせず、貸借対照表上不当に資産計上していました。
この和解債権処理について、買主は、売主に対し表明保証違反と主張しました。
(論点)
売主に表明保証違反があったとしても、買主が売主の表明保証違反を知らなかったことにつき重過失が存在した場合には、売主は表明保証責任を免れるか否かという点が争われました。
(結論)
買主の重過失は、売主が故意に情報を隠したことを重視し、否定されました。
よって、売主は、不当に資産計上された利息充当額等の損害を補償する義務を負いました。
②表明保証が重要な点において違反しているかどうか論点になった事例(東京地裁平成23年4月19日)
(事案)
対象会社が取引先と締結している契約について、事業等に重大な悪影響を及ぼす可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないことを表明保証し、この表明保証した事項が真実でなかったことに起因して買主に損害が発生した場合には、売主が損害を補償することに合意していました。
しかしながら、対象会社が販売した機械の性能不良が発覚してある取引先から売買契約を解除されたために、対象会社に1億6000万円以上の損害が生じたとして、買主は、売主に対し表明保証違反と主張しました。
(論点)
売主から開示された情報が、重要な点で正確であったか否かという点が争われました。
(結論)
当該機械の性能が要求に対し大幅に未達状態にあることの情報開示や、買主は現地調査を行い、当該機械の一部についてはある取引先からの解除が確実である旨の連絡を受けていたこと等により、当該売買契約に係る将来的な危険を予想できたとして、売主は表明保証の対象となる事項について重要な点で不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかったという事実は認められないという結論になりました。
よって、売主は、買主に対し当該表明保証に基づく責任を負いませんでした。
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