なぜ富裕層は下駄履きマンションを買ってはいけないのか?3つのリスクとは?

下駄履きマンションは、住居用(主に上層階)と非住居用(主に低層階)が混在しているマンションです。1階に店舗が入っている建物などが典型です。

不動産投資の現場では、物件情報として下駄履きマンションをよく見かけますが、実は普通のマンションよりも扱いが難しいものです。新築のマンションを建てる場合に、1階を店舗にするプランも多いですが、事業計画を検証する上で注意点がたくさんあります。

また、中古の収益物件として売りに出されることもありますが、新築と同様、中古で買う場合にも注意が必要な不動産です。

今回は、下駄履きマンションについて解説します。2020年のコロナ禍では、テレワークの導入、外食自粛など、非住居系不動産の運用に大きな影響がありました。そのような状況も踏まえ、下駄履きマンションが採用される理由、下駄履きマンションの注意点などをまとめていきますので、是非参考にしてください。

下駄履きマンションとは?

「下駄履きマンション」とは俗称で、1階や2階までが店舗や事務所、駐車場になっていて、上部(上階以上)が居住用の賃貸マンションになっているものです。他にも通称「下駄履きレジデンス」などと言われることもあります。

それでは、なぜ1階、2階を非居住用とするのか。それは建物の収益性が関係してきます。想定される背景や、下駄履きマンションのメリットを列挙します。

(下駄履きマンションが多くなる背景1) 1階部分の収益性が違う

居住用物件は1階が不人気です。それは、防犯的な面、プライバシーの面などが理由です。逆に、非居住用物件(特に店舗)は1階が人気です。これは、人の出入りがしやすいこと、視認性が高いことが理由です。そのため、立地にもよりますが、1階部分の賃料単価は、居住用と店舗では大きく差が出ます。

(下駄履きマンションが多くなる背景2) 賃料単価は非居住用の方が高い

一般に、店舗・事務所の賃料(坪単価)は居住用よりも高い傾向があります。そのため、事業の収益性を高く見せるために、店舗・事務所を建築事業計画に組み込むことが多くなっています。背景としては、近年、資材高騰・人件費の高騰により、建築コストが上がっているため、事業収益を高めるために工夫が求められ、下駄履きマンションが提案されやすいことがあります。

(下駄履きマンションが多くなる背景3) 敷金・礼金・保証金を確保できる

これも事業の収益性に関係することですが、居住用物件は近年、礼金・敷金をゼロにすることが多くなっています。空室が多くなり、入居者募集が激戦になっているからです。一方、非居住用物件(店舗・事務所)は礼金のほか、多額の保証金を預かることが多いです。これは、用途が「事業用」ということもあり、借主が事業を営むプロであることが背景にあります。原状回復費用は多くの場合、テナント側が持つので、その費用の保証の意味合いもあります。

あとは、入るテナント次第ですが、1階に人気のテナントが入ることで入居者募集にプラスが見込める、というのも理由として挙げられると思います。

下駄履きマンションは買ってはいけない? リスクと注意点

さて、このような理由で収益性が高いと言われる下駄履きマンションですが、住居と非住居が混在することから、次のようなリスクが存在します。

下駄履きマンションのリスク1(構造上のリスク)

下駄履きマンションの場合、1階部分が非居住用の仕様になります。店舗・事務所仕様では、壁量や柱が少なく大部屋状態になりがちなことや、駐車場仕様の場合ではピロティ形式になることから、一般に地震被害に対するリスクも大きいと言われています。

特に旧耐震基準(1981年5月31日以前に建築確認)を経て建てられた下駄履きマンションの場合は注意が必要です。

下駄履きマンションのリスク2(空室リスク)

下駄履きマンションは、1階、2階部分を非居住用(店舗・事務所)にすることで、収支を改善させることを主な目的としています。しかし、そもそも店舗・事務所としての市場性が乏しければ、空室リスクが大きくなります。これは特に用途を店舗とした場合に顕著となります。

ニーズに合致しない店舗の客付けというのは相当大変です。しかも、多くの場合、事業主も店舗用のスペースにお金をかける気もありませんからスケルトンになることが多いです。

店舗はそこに来るお客様のことも考えて設計しなければ人気のある店舗にはなりません。残念ながら、テナント目線やそこを利用するお客様の目線を外してしまった店舗用の物件は、まるで余り物のように残っています。エリア・街ごとにニーズも変わりますので、店舗系を事業に組み込む際には、エリアのリサーチはしっかり行いましょう。

【参考】店舗賃料トレンド2021春 出典:一般財団法人 日本不動産研究所

下駄履きマンションのリスク3(入居者トラブル)

下駄履きマンションは、住居用と非住居用のスペースが共存することから、入居者とオーナー、もしくは入居者間でトラブル・クレームに発展することがあります。

たとえば、1階が飲食店だった場合、ごみの捨て方が悪いなど清潔度に問題がある場合、害虫・害獣(ゴキブリ・ネズミなど)が発生しやすいという声があります。また、厨房の排気を下階から出していますと臭気が上階方向に上がり、上階の住戸に住まわれている方からクレームが出ます。

コンビニなどの物販店舗ですと、住人と関係ない不特定多数の人間が集まってくるのでセキュリティが心配という声があるほか、深夜の荷物の到着・積み替えなども騒音の元になりますので、2階・3階などの直上階からは苦情が多いようです。

(参考)コロナ禍と非住居系(店舗・事務所)の運用

2020年はコロナ禍で、非住居系の不動産の運用が見直されるきっかけになりました。まずオフィス系の需要ですが、テレワークが進むと、以前よりも小さなスペースで用が足りるようになります。そうすると、コストカットを目的とした事務所の移転が進むことになります。

また、飲食業を中心に実店舗を持つ事業主は経営環境がかなり厳しくなりました。やむを得ず撤退する事業主も少なくありません。少なくともコロナの影響が縮小するまで、店舗系の賃貸ニーズは下火になってしまいます。

住居系のニーズも、テレワークの普及によって都心から郊外・地方で流れる動きも見られますが、店舗・事務所の置かれた状況よりは大分安定しています。社会環境の変化が緩やかに現れるのが、住居系不動産の良いところです。

逆に、下駄履きマンションで店舗を建物に組み入れている物件の場合、コロナ禍のような社会変化に影響を受けてしまうことも多いので、実際に検討する場合は、このようなリスクを踏まえて収益性を考えましょう。

【参考記事】不動産価格は今後どうなる?新型コロナ・オリンピック・不景気

よくある下駄履きマンションの事業計画 新築の場合

さて、下駄履きマンションの注意点やリスクをまとめましたが、これまで不動産の運用や、店舗の運営などを経験していなければ、少しハードルが高い投資だというのはご理解いただけたと思います。ここで下駄履きマンションの新築計画について、もう少し触れたいと思います。

マンション新築計画では、よく「この立地なら店舗が合う」と期待されて下駄履きマンションを提案されることがあります。しかし、店舗側のニーズはほとんど加味されず話が進んでいることが多く、収支計画上よく見せるための数字あわせになっていることもあります。これは、店舗開発に関する経験が少なく、住宅知識しかない設計と施主の場合によくみられます。

プロの設計士と言っても、やはり専門分野が分かれます。意匠・構造・設備で分かれるのはもちろん、用途として、住居(戸建て・共同住宅)、構造(木造・鉄筋コンクリート)によっても得手・不得手があると考えてください。

ましてや、賃貸ニーズに関しては余程の経験のある設計士で、守備範囲も広いエキスパートでなければ、テナント募集に必要な店舗側のニーズや知識などわかっていないと考えた方が無難です。

店舗側のニーズとは、立地は当然ながら、店舗の導線であったり、間口であったり、広さ、仕上げ、など多岐にわたります。家主の希望業種に制限がある場合と無い場合でも、テナント募集にはとても影響があります。

しかし、当初の事業計画では、そのような事情は加味されず、賃料だけはなぜか、広さ×坪単価で、これだけ取れると計算されているので、予期せぬ空室の長期化によって、賃貸経営が圧迫されているオーナーもたくさん存在します。

(よくあるトラブル 排気用のダクトスペースはしっかり考えられているか)

テナント候補として一番数が多いのは飲食業です。物販店舗や美容室、整骨院なども最近は多いですが、やはりダントツで引きが多いのが飲食店。しかし、飲食店を入れるときには一定の注意が必要となります。

マンションの1階部分で焼き鳥屋をオープンしたところ、住人から「煙の量がひどい」、「臭い」などのクレームを受けてしまい、半年で店を畳む結果となったなどという話はよくある話です。

実は、臭気は最もトラブルになりやすい要素です。カフェなどのいわゆる「軽飲食」と、焼肉・焼き鳥・居酒屋などの「重飲食」では求められる設備も違ってきます。それがよくあらわれるのが排気・換気設備。

1階や2階の外壁から厨房の排気をされたら、臭気は上に上がりますので住戸の窓を開けますと 臭くてたまりません。厨房の排気ダクトをマンションのエレベーターや階段室の脇にダクトスペース(DS)を設置して屋上より高い位置までダクトを上げて、そこで排気しなければ、対策としては不十分です。

しかし、この様な対策には費用が掛かるほか、専有面積を減らしてしまうことになるので、積極的に対策されることは少ないでしょう。そのことを知らずに、1階に焼き鳥屋さんや焼き肉屋さんをテナントとして入れてしまってトラブルになったオーナーさんは数多くいらっしゃいますので注意しましょう。

もし、これから新築する場合で、テナントとして飲食店、特に重飲食の店舗を想定している場合は、排気設備の確認は絶対に必要で、設計士さん以外に、しかるべき店舗設備の専門家にアドバイスをもらう方が無難でしょう。

富裕層・お金持ちのあこがれ「自分の店を持ちたい」の功罪

色々な不動産オーナーから話を聞くと、実は収益性以外にも「店舗」のある物件、特に「飲食店」にあこがれを持っている人が少なからずいらっしゃるようです。

定年退職の後は自分で店を持ちたいと言って、喫茶店や蕎麦屋、ラーメン屋などを開業する方もいらっしゃいます。ただ、中には「自分で開業するほどではない」という方が、自分の不動産に飲食店を入れて、知人友人を招きたい、自慢したいという思いを持つようです。

実はこの心理には、不動産経営上、少し問題が出てくることがあります。まず、「テナント」への希望条件が多くなる傾向があります。自慢したい気持ちが裏にあるので、カッコイイお店、おいしいお店でなくてはなりません。テナント側のハードルが上がるので、なかなかテナントが決まらないことが考えられます。

特に、自分の物件の立地・特徴と、自分が入れたいテナントに不一致があった場合は面倒なことになりがちです。

あとは、入れたいテナントを重視するあまり、自分の物件の設備と不一致が生じることもあります。前述の「重飲食」と排気設備の件、「美容室」と排水設備(シャワーなど、通常よりも多めの水量が要求されます)、「コンビニ」と電気設備(電気容量)なども、注意が必要なところです。

設備図面などを用意したうえで、自分の物件でどのようなテナント(業種)を入れられるか、専門家に相談してみるとよいでしょう。

下駄履きマンション まとめ

さて、下駄履きマンションの注意点やリスクをまとめましたが、もちろん下駄履きマンションが全面的にダメなわけではありません。前述のようなリスクや注意点を克服できれば問題ありません。

管理会社も、住居用の経験は豊富でも、店舗用不動産にはあまり経験がないことが多いようです。使用目的・分野が違いますので、下駄履きマンションを購入したり、新築したりする場合は、テナント仲介と店舗設備の専門家をブレインとして探して、アドバイスをもらうようにしましょう。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。