金利が上がりそうですが、不動産投資を始めて大丈夫?|不動産投資100問100答(6)

筆者の不動産投資のコンサルタントとしての体験から、よくある質問に簡潔に答えていく「不動産投資100問100答」シリーズ。今回は第六回として、金利の上昇リスクに焦点を当てます。

今回の質問は、「金利が上がりそうですが、これから不動産投資を始めて大丈夫?」というものです。ここ数年、金利が上昇する気配が濃くなっていますが、2024年3月の日銀金融政策決定会合で、いわゆる「マイナス金利政策」の修正が決定路線になったことは結構なインパクトがあります。

このまま金利上昇が続くようであれば、借入をしている不動産投資家にとっては、不動産を購入する場合、金利の上昇は不動産投資のキャッシュフローに多大な影響を及ぼします。

ご質問にもあるように、金利上昇局面でこれから不動産投資をしても良いのか、大きな借入をしながら既に複数の不動産を所有している筆者のクライアントの動向を紹介しながら、この点について解説します。

金利が上がりそうですが、これから不動産投資を始めて大丈夫?

あくまでも筆者の個人意見ですが、金利上昇リスクについては、それほど神経質にならなくてもよいかと思っています。たとえば、変動金利で借りていて、翌年から金利が2%上がる、なんてことが起きたら大変ですが、まずそのようなことは起きないだろうと思っています。もしそんなことが起きたら、その時は社会全体が大混乱です。

●どうしても金利上昇が怖かったら・・・

それでも金利上昇が心配で仕方ないという人は、そもそも無理に不動産投資をしなくてもOKです。

決して悪い意味ではありませんが、そのような人は借入自体に心理的耐性がないため、過度なストレスに晒されます。あまりレバレッジを利かせた不動産投資は向いていません。

正直、不動産投資以外の資産運用の方が向いていると思います。株式投資など、他にも投資はあるので、そちらを実践したほうが無難です。

あとは、投資用不動産よりは自宅購入の方が向いています。堅実に価値ある自宅に投資する方が無難です。自宅であれば、超長期固定(フラット35)もあるので、安心できると思います。

金利上昇リスク 不動産投資家はそれほど焦っていない。

さて、ここで実際に不動産投資を実践している方々の反応をご紹介します。筆者のクライアントは不動産投資で多額の借り入れを背負っていますが、金利上昇についてはあまり焦っていません。

お酒の席でも、皆さん「金利が上がりそう」と愚痴をこぼしていますが、悲観はしていませんし、慌てて対策を取ろうともしていません。

筆者のクライアントは、キャッシュフロー面でも、資産背景面でも余裕があるので、ある程度の金利上昇リスクを飲み込む余力があります。それに、あまり理不尽なことを銀行から言われたら、借り換えに動く準備もできています。投資家同士で横のつながりもあり、借り換えできそうな銀行を紹介していただくこともできるので、その点での精神的ゆとりもあると思います。

あとは、いざとなったら売ればいいやと考えています。いい時期に割安な価格で仕入れているので、今売っても結構儲かります。それを証券投資に回すことも選択肢としてはありと言えます。そもそも論ですが、いつでも売却できるような物件を買うことが最強の対策と言えます。

まとめると、不動産投資家の金利上昇リスク対策として、まずは極力上がらないように銀行と交渉する、納得できないくらいに上がったら、借り換えか売却を検討する。というのが基本スタンスとなります。

(参考)銀行との金利見直し交渉 実際のところはどうなのか? 

ちなみに筆者のクライアントの多くは変動金利か短期固定(2年か3年くらい)で借りています。長期固定(10年)は一部の都銀で借りた人以外は、ほとんどいません。

固定期間がある場合は期間満了ごと、つまり2、3年ごとに金利の見直しが入ります。期間満了が近づくと、銀行から利上げの相談が来ます。ここ数年は金利上昇傾向だったので、上げさせてもらえませんか?という打診が多くありました。

ただ、いきなり1%も上げるような交渉はされていません。高いところで「0.5%アップ」くらいから交渉スタートです。その場合は「優越的地位の濫用」云々と言われてしまうのであまり大っぴらには言えませんが、銀行側にメリットのある諸条件を組み合わせることで金利の上げ幅を抑えることに成功しています。

諸条件とは、銀行が勧める提携クレジットカードの契約や、保険契約、積立定期預金との抱き合わせです。とはいえ、0.2%くらいずつ金利は上げられているのが現状です。

ちなみに、いきなり「1%アップ」だと、借り手はおそらく借り換えに動きます。筆者のクライアントは、大体3億円以上は借入があるので、1%の利上げになると、年間300万円の負担増となります。こうなると、借り換え費用(抵当権設定登記手数料など)がかかっても、少しでも金利の低い銀行を探した方が経済的です。

●変動金利の場合

変動金利の場合は、大体半年ごとに金利の見直しがあります。後述しますが、住宅ローンでは「5年ルール」「125%ルール」というものがあり、金利が上昇しても、債務者に急激な負担増とならないように配慮されています。

賃貸住宅のローンでも同様の配慮をしている銀行もありますので、そのような銀行で借りていれば、すぐに資金繰りが厳しくなることはないでしょう。変動金利で借りる場合は、金利上昇時の取り扱いについて事前に確認しておきましょう。

(参考)金利上昇時の救済措置 住宅ローン「5年ルール」と「125%ルール」

あくまでも自宅購入(住宅ローン)の話ですが、多くの金融機関では金利が上昇した時の救済措置として「5年ルール」と「125%ルール」という制度があります。これは、金利が上昇しても債務者の負担が急激に重くなることがないようにすることを目的とします。

●(5年ルール)5年ごとの返済額見直し方式

変動金利型の住宅ローンで5年ルールを採用している金融機関の場合、年2回の金利の見直しで適用金利に変更があったとしても5年間は毎月の返済額が変わらない、というルールです。この場合、毎月の返済額に占める元金と利息の割合が変更されます。

●(125%ルール)125%上限方式とは

年2回の金利の見直しにより適用金利が上がり、毎月の返済額が増えたとしても、再計算された新しい返済額は旧返済額の125%までに抑えられる、というルールです。そのため、金利が急上昇したからといって、毎月の返済額が急激に増加することはありません。変動金利型の住宅ローンは、5年ごとの返済額見直し方式が適用されるため、5年目の利率変更時に新しい返済額を再計算します。

※一部、住宅ローンであってもこれらのルールを採用していない金融機関もあります。借りる前に調べてみて下さい。

※これらのルールにより、適用金利が大きく上昇しても急激な負担増が発生しないのですが、その代わりに毎月返済額を超えた分の元金や利息の返済が繰り延べられてしまい、最終回の返済額が大きくなることがあります。

これらは本来は住宅ローンの制度ですが、賃貸住宅のローンでも同様の制度を用意しているところがあります。不動産投資をこれから始めたい方で、どうしても金利上昇が気になる方は、借入を相談する際に、これらの軽減措置があるかどうか確認してみて下さい。

(参考例)横浜銀行 アパートローン

不動産投資における金利上昇リスクの対策

一応、金利上昇リスクへの対策もいくつかあります。

●固定金利への切り替え  

一番手っ取り早いリスクヘッジ策です。実際、筆者のクライアントで変動金利で借りていた人は、これを検討しました。ただ、金利が高くなってしまうので、切り替えを見送った方がほとんどでした。今後は分かりませんが・・・。

●借り換え

借り換え相談で、他行に相談してみるのも一つの手段です。ただ、今よりも有利な借り換え条件を引き出せるかは不透明です。

あくまでも筆者の感覚ですが、住宅ローンの借り換えは歓迎されますが、意外と不動産投資ローンの借り換えはそれほど受けがよくありません。

また、借り換えする場合には銀行に支払う手数料のほか、抵当権設定登記など、結構な諸費用がかかるので、それを上回るメリットがあることが条件です。

●資産背景を整える

これは結構王道で即効性のある対策ではありませんが、資産背景・資産バランスを整えることは有効です。銀行からみて優良顧客となることで金利の上昇を抑えることができます。その気になれば、いつでも借り換えするぞ、という姿勢を見せるだけで銀行としても無茶な金利見直し交渉は出来なくなります。

筆者のクライアントもしばらくの間は家賃収入をプールして金融資産をコツコツ貯めています。5年くらい順調に運用すると、それなりの資産が貯まるほか、不動産の運用実績も積み上がるので、ますます銀行の印象が良くなります。

●物件を売却してしまう

不動産を売却するのも1つの手です。その場合、売却損をしないことが大前提です。前述の通り、筆者のクライアントはいざとなれば売却することも検討しています。ただし、きちんと保有期間に見合った売却益が見込めることが大前提です。

いつ売却してもきちんと売却益を得るためには、購入価格を低めに抑えて比較的高利回りになる条件で物件を購入する必要があります。「利は元に在り」という格言の通り、上手に物件を仕入れてください。

総括 金利が上がりそうですが、これから不動産投資を始めて大丈夫?

・不動産投資家は金利上昇リスクの不安を飲み込んで投資している。過度に不安を抱いても仕方ない。

・どうしても金利上昇が怖ければ無理に不動産投資をする必要はない。他の投資を検討するか、自宅の購入を検討すべき。

・金利上昇リスクへの対策は、固定金利への切り替え、借り換えといった手段があるが、実際には金利交渉で済ませるほうが実践的。

・金融機関に有利な立場に立つために、金融資産の蓄えを潤沢にすることが重要。弱い立場になってはいけない。

・最強の金利上昇リスク対策は、最初からいつでも売れる物件を買うこと。そのためには、物件の仕入れがとても大事になる。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。