今回のテーマは、アパート・マンションの大規模修繕です。大規模修繕とは、建物の資産価値を維持することを目的として、躯体の修理・補修や共用部分の改修を行う大規模な工事のことです。
大規模修繕は大きなコストがかかるため、すぐに物件を買う前に、将来どのくらい修繕費用が掛かるのか、心配になる方も多いと思います。
大規模修繕にはどんな項目があって、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。大規模修繕工事の周期と工事にかかる費用の目安をご紹介します。
大規模修繕はどんな項目があるのか?
大規模修繕は、おおむね10~15年おきに行うのが一般的です。主な修繕・補修内容は建物の規模にもよりますが、壁のひび割れ補修、外壁の再塗装、屋上の防水補修、共用廊下、階段、エントランス等のクリーニングおよび補修、エレベーターの改装や交換、給水管工事、排水管工事、などがあります。
分譲マンションの大規模修繕の場合、実施にあたって管理組合主導で修繕委員会を設立し、長期修繕計画に基づいて進めていくことになります。
他方、不動産オーナーが単独所有するアパートなどの場合は、オーナー自身で大規模修繕の計画を立てなければなりません。
(賃貸アパート・マンションの大規模修繕)
修繕計画を考える場合、部位ごとの工事項目と修繕周期、費用などを盛り込んで、30年程度の「長期修繕計画」を立てるのが一般的です。
賃貸住宅の構造は、木造、鉄骨造、RC(鉄筋コンクリート)造が一般的です。そして、建物の構造・工法が異なると、修繕サイクルも異なりますが、一つの目安として、5年単位で繰り返す修繕、10年単位で繰り返す修繕があります。
また、RC造のマンションの場合は、給水ポンプや貯水層、エレベーターなどの高額設備があり、30年単位で更新することが多いようです。また、周辺の競合物件の状況次第では、通信機器の設置、警備システムの強化、バリアフリー化、など物件のバリューアップを目的とした改修工事を行うこともあります。
(長期修繕の周期)
周期 | 種別 |
5年毎の修繕 | ・鉄部塗装(ベランダ・施設・廊下など) ・給排水管の高圧洗浄 |
10年毎の修繕 | ・外壁の塗装・葺き替え(外壁・屋根) ・屋根・屋上の塗装・防水処理 ・土台防蟻処理 ・給水ポンプの交換 |
30年に一度 | ・給排水管・貯水槽の交換 ・エレベーターの交換 |
大規模修繕の参考書 国土交通省の「計画修繕ガイドブック」
それでは次に、各修繕でどのくらい費用がかかるのか解説します。賃貸住宅(アパート・マンション等)の大規模修繕に関しては、国土交通省がガイドブックという形で標準的な修繕費用の目安を示しています。
このガイドブックは、写真や表などを交えて賃貸住宅の大規模修繕の情報を大変分かりやすくまとめてあり、参考書として一度はご覧になることをお勧めします。後述しますが、費用面は別として、「賃貸住宅の大規模修繕」を一から勉強するには良い教材だと思います。
【参考情報】民間賃貸住宅の 計画修繕 ガイドブック(国交省)
(構造・規模ごとに違う戸あたりの修繕費用)
このガイドブックでは、1年目から30年目までに発生する修繕時期・費用のイメージとして、構造・間取りごとに以下4パターンの試算をしています。
大規模修繕にかかる費用としては、間取りが広い方が高く、構造は木造よりもRCの方が高くなります。
(戸あたりの修繕費用:30年間累計)
「RC造20戸(1LDK~2LDK)」 約225万円(棟あたり約4,490万円)
「RC造10戸(1K)」 約177万円(棟あたり約1,770万円)
「木造10戸(1LDK~2LDK)」 約216万円(棟あたり約2,160万円)
「木造10戸(1K)」 約174万円(棟あたり約1,740万円)
あくまでも参考値となりますが、あなたが1K×14室の木造アパートを所有していた場合、戸あたり174万円の修繕コストがかかるため、1棟あたり2,436万円の修繕コストがかかると試算できます。
先輩大家さんに聞く 実際にかかる修繕費はどのくらい?
さて、ここからが本題です。先ほど、国土交通省のガイドブックをご紹介しましたが、これはあくまでも参考値です。実際のところ、先輩大家さんの事例では、大規模修繕でどのくらいの費用が掛かっているのでしょうか。
あくまでも、筆者のクライアントや知人、付き合いのある業者さんから聞いた経験則になりますが、ざっと以下のような感じです。(擁壁や浄化槽など、特殊な設備等がある場合は別です)
(30年間でかかる大規模修繕費用の目安)
小規模木造アパート 1000万くらい
中規模木造アパート 1500万~2000万くらい
小規模RCマンション 2000万~3000万くらい
中規模RCマンション 3000万~4000万くらい
大規模RCマンション 物件によって異なる
※イメージとして「小規模」は10室未満、「中規模」は20室未満くらい。
※大規模RCマンションは高額設備が多いため、物件によって大きく異なる。
(スプリンクラー、給排水ポンプ、貯水槽、エレベーターなど)
上記の金額は、極力コストを抑えるために、損耗の軽微なところはギリギリまで修繕を先延ばしにしたり、施工費の安い業者さんを見つけたりする努力をした場合なので、前述のガイドブックに比べるとずいぶん安く上がっていると思います。
以下、実際に大規模修繕を考える際に注意してほしいポイントをまとめます。
(大規模修繕ポイント1)大きなコストがかかるのは足場
大規模修繕で大きなコストがかかるのは、足場を必要とする修繕。足場をかけて屋根や外壁を塗り替える本格的な大規模修繕は、30年間で2回程度と想定しておけばよいでしょう。
ちなみに、足場をかける際の費用ですが、アパートでは1棟で250万円くらいを見込んでおいたら良いと思います。一回足場を組むとそれだけ費用が掛かりますので、屋根や外壁工事など、足場を必要とする修繕はまとめて行うのがセオリーです。
(大規模修繕ポイント2) 水に関する修繕に注意すること
大規模修繕の時期を考える際、よく注意していただきたいのが防水に関する修繕。屋上防水やバルコニー防水などです。防水に関する修繕が重要なのは、2つの理由があります。
一つ目がトラブル予防。アパート・マンションの水濡れ損害は非常に厄介です。雨漏りが発生し、オーナーと入居者でよくトラブルになります。
天井などから水漏れが発生し、家財に損害を与えた場合、オーナーが入居者に賠償することになります。もちろん、保険でカバーすることも出来るのですが、賠償云々でもめるのはお金とエネルギーの無駄遣いです。
二つ目が躯体(構造体)の損耗。防水に不備があって水漏れが多発すると、高確率で躯体が傷みます。RC物件で水漏れがあると、コンクリートだけでなく、コンクリートの中の鉄筋にもダメージが発生しますので、躯体の寿命が大幅に短くなります。また、木造アパートでも、雨漏りなどが頻発すると躯体の木材が腐朽してしまいます。
建物を長く運用するためには、水によるダメージが発生しないように、普段から点検し、不具合がある場合は迅速に修繕を施すようにしましょう。
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