今回は、「不動産業者とのトラブルから学ぶ不動産投資」と題して、特に初心者の方に参考となる不動産業者とのトラブル事例などをご紹介します。
仕方のないことではありますが、不動産業者にはダークなイメージが付きまといます。映画や小説などで多少誇張された部分もあるかもしれませんが、「地上げ」「土地転がし」「地面師」「詐欺」など、悪いイメージには事欠きません。
特に不動産投資の初心者の方にとっては、不動産業者は少し怖い存在かもしれません。知識の少ない買い手というのは、悪質な不動産業者にとっては格好のターゲットとなります。売主や仲介業者から十分な情報を与えられないまま、手続きばかりを急かされてドツボに嵌るような事例もよく聞いています。
筆者も約20年ほど不動産業界に携わっていますが、知識の乏しい素人をターゲットにする業者は確かに存在します。そして、手痛い損失を負ってしまい不動産投資から撤退していった投資家さんも少なからず存在します。大事なのは、不動産取引の現場において、どのようなことが起こり得るのか、あらかじめ情報を知っておくことです。
そこで今回は、筆者の身近で起きた事例などをもとに、過去にどんな業者が存在し、どのような手法で業績を伸ばし、淘汰されていったのか、詳しく紹介していきたいと思います。これから具体的に物件を探していく方は、今回お話する内容を頭の片隅に置いていただけたら幸いです。
(事例)辣腕不動産業者 A社の話
ここからの情報は、多少なりとも筆者なりのバイアスがかかっていますので、その点だけご注意のうえお読みください。
A社は、かつて銀座にあった不動産仲介業者で、とにかく色々な投資家さんの間で悪評が広まっていた業者です。筆者は直接の関わりや面識はなかったですが、筆者のクライアントのうち数名が投資初心者の頃にこの業者と接触しています。
営業スタイルは非常にアグレッシブ。一見さんのお客でも手間を厭わず社長自らトップセールスを仕掛けてきます。そして対人スキルは抜群、応酬話法は社員にも徹底。それでいて、紹介される物件は、どれも「儲からない物件」ばかり。そして、引っかかったお客さんは絶対に逃がさない。そんな会社です。
ちなみに、このA社は銀座の前にも何度か移転を繰り返し、最後には自己破産してしまいました。直接的には、スルガ銀行の不正融資問題などを背景とした融資の引き締めが原因と言われていますが、その他にも何かトラブルがあった可能性もあるかもしれません。
さて、このA社の問題点は何かというと、以下の3点です。
(問題点1)儲からない物件を高値で売りさばく
なぜかA社の扱う物件はほとんどが儲からないものばかり。買い手から見れば、モラルの欠片も無い業者さんです。お客が買いたいと言ったから紹介して、お客自身が納得して買ったのだから良いでしょう。というのが基本スタンスです。
買った後にお客が儲かるかどうかは関知しません。すべて自己責任と言わんばかりに、買った後のお客さんからトラブル・クレームが寄せられてもアフターフォローはほぼ皆無です。不動産業者は多かれ少なかれ、こういった傾向はあるのですが、ここは手のひら返しが極端なので恐ろしいです。
しかも、高値で売りつける営業力があるので、売り手にとっては強力な味方になります。その結果、難ありの売却物件情報が多く寄せられるので、それが余計に悪評とともにA社の業績を後押ししました。
(問題点2)初心者を狙った拘束型の営業スタイル
ハッキリ意思表示する人、細かい収支計算で交渉してくる買い手は最初から相手にしません。「賢い買い手」は客ではなく、「モノを知らない初心者」「お人よしの素人さん」こそが、彼らの顧客になります。
そして一度エサに食いついたら絶対に離さない、そんな意気込みが感じられる営業です。情に訴える、褒めおだてて懐に入り込む。商談の途中で何人もの人物が入れ代わり立ち代わり登場して、顧客を喫茶店で長時間拘束してきます。そして疲れてきた頃合いを見計らって、最後に情に訴えて一気に契約に持ち込んできます。
(問題点3)違法にならないギリギリのところで攻める営業
タチが悪いのが、モラルが無いだけで、契約自体は有効であり不法行為ではないこと。そのため、投資家さんが大きな損失を負っても、A社に罪に問うことも、損害賠償を請求することも出来ず、自己責任として泣き寝入りすることになります。
特に不動産投資ブームが広まっている最中だったので、手痛い損失を被った投資初心者が少なからず存在しています。
A社事例 身近でこんな事例がありました。
これは、実際に筆者のところに相談に来たお客様の事例です。この方はサラリーマンで、当時は不動産投資初心者だったのですが、老後のための資金作りとして不動産投資を始めました。
情報を集める中でA社の人当たりの良い、誠実そうな営業に好感を持ち、1~2か月の検討期間を経て、住居・オフィスが混在する物件を買いました。ところが、購入後すぐに、オフィス部分に入っていたテナントが次々と退去してしまい、毎月20万~30万円の持ち出しが発生してしまう事態になりました。
A社にも何とかフォローをお願いしようとしたらしいのですが、電話にも出てくれない、メールの返信もない状況で、孤立無援になってしまいました。ちなみに、当時はオフィス不況の最中であり、なかなか次のテナントが見つからない状況。毎月20万円ものお金が手元から出ていく恐怖は並大抵のものではなかったようです。
買った直後の退去ということで、売主側の入居者偽装工作を疑ったのですが、証拠もないため責任を追及することも難しい状況でした。
(※実際に、入居者の偽装工作がされることもあります。売主が高値で物件を売るために、知り合いに頼んで短期間だけ高い家賃で借りてもらいます。その場合、物件の売却が済んだらすぐに退去されてしまいます。)
色々悩んで対応を検討した結果、最終的には損切りして、次の投資を考える方向性でまとまりました。損切りの結果、一千万円まではいかないものの数百万円の損失となり、相当に痛い授業料となりました。しかも短期での売却だったため、金融機関への違約金までセットです。
実は、この方と同様に、A社から「難あり物件」と「金利の高い銀行」のセットで物件を紹介された方は大勢いらっしゃいます。もともと儲かりにくい物件なので、空室になったり、修繕が発生する度に、すぐキャッシュアウトになってしまいます。
売却しようとしても「難あり物件」なので、かなり安く買いたたかれます。もちろん、A社の顧客すべてが損失を被ったとは言いませんが、少なくない数の投資家さんが痛い目をみたようです。
収支計算が出来て融資の知識があれば騙されない
さて、ここからが大事なのですが、どうすれば前述のような事態を避けることができたでしょうか。正直なところ、ある程度の知識がある方であれば、まず物件概要書を見た段階でA社から紹介された物件は検討しません。
・利回りが低いのでキャッシュが残りにくい。
・築年数が古いので修繕費用が掛かりそう。
・融資を受けにくい物件なので金利の高い銀行を使わざるを得ない。
・出口(将来的な売却)が難しそう。
などの懸念事項が、ほぼ一発で分かります。当然見送りですし、慣れてる投資家さんであれば、このような物件を送ってくる業者さんとは付き合わないようになります。
このように、判断ができるようになるためには、最低限以下の2つの知識が必要です。
1 自分で収支計算が出来ること
2 融資の知識を持つこと
今回問題だったのは「難あり物件」を買ってしまったことです。収支判断ができれば、わざわざ儲からない物件を買うことはありません。どんなに熱心に営業されても、普通の神経を持っていれば断れるはずです。
それから、融資の知識があれば、この物件は売りづらいということが分かるはずです。そもそも「難あり物件」は、いざ売却しようとしても、銀行から融資が出にくい物件です。
当然、次の買い手が見つかりにくいので、やむを得ず業者に売却することが多いのですが、その際は自分が買った時よりも大幅に安い価格で売却せざるを得なくなります。
融資の知識を持っていれば、将来的に困るのが見えてくるので、当然このような物件は避けることができます。
もちろん、収支、融資のほかにも必要な知識がありますが、致命的なミスを予防するための優先順位は、この二つが大きいと思います。
この二つについては、様々な参考コラムや書籍、勉強会でも学ぶことができます。是非、一棟目を買う前にこれらの情報を集めて、自分の判断指針をもって購入準備に臨んでください。
(参考1)不動産業者を信頼してはいけない?
自分も業者だった経験を踏まえて筆者の率直な意見を申し上げると、会社の方針や営業マンの人格によって度合いは異なりますが、基本的に不動産業者は信頼してはいけないと思います。少なくとも100%信頼するのは止めた方がいいです。
そもそも、多くの場合、あなたと不動産業者の利益は相反しています。だから、担当者がどんなにいい人であっても100%顧客優先にはなりません。基本的には取引優先です。なるべく早く、なるべく多く、なるべく高く成約させることが彼らの仕事です。
これは筆者も同様で、今でも100%顧客優先で仕事をすることはありません。売り手との関係性も考慮します。どの立ち位置で取引に関わるかによって、買い手と売り手の利益のバランスを考えて動きます。
継続的な取引が望めない限り、業者は買い手にとって有利な条件にこだわる必要はありません。細かいことを言って値下げを要求する買い手は無視してしまい、他に高く買ってくれる人を探せばよいのです。
筆者も、まずは「融資が付くかどうか」「不動産を買えるかどうか」を顧客の基準にします。買えない方には、あなたには無理です、と始めから申しあげています。
繰り返しになりますが、不動産業者は、弁護士のようにあなたに寄り添ってくれるような専門家ではありません。くれぐれも頼り切ることにないようにしてください。
(参考2)あなたが売主の立場だった場合
今回のA社は、決して信頼は出来ませんが、高値で売ってくれる、手っ取り早く売ってくれるという意味では、売り手にとっては頼りになる業者だったと言えます。モラルに反しているのは重々承知ですが、立場の違いというのは恐ろしいものです。
ただ、どんな場面で裏切ってくるか見当もつかないので、いかに営業力が強いとはいえ、このような業者を使う場合には、十分に注意が必要です。
筆者が考え付く範囲で言えば、重要事項説明の中で、買い手に悪印象を与える項目を意図的に隠すことなどがあるかもしれません。具体的には、隣地越境、道路の権利関係、土壌汚染、地中埋設物の問題などが考えられます。
あとは、買主さんの属性をよく見せるために、資料を偽装して不正融資を引き出す、なんてことも十分あり得ることです。
当然、後になって発覚したらトラブルになりますが、「知らぬ存ぜぬ」で逃げようとするでしょう。やり方は色々あります。問題が発覚した頃には担当者が退職している、ということはよくありますが、会社自体が無くなっていることもしばしばあります。
そうでなくても、法人名を変えたり、所在地を移したり、場合によっては別法人に事業を移管するなどして、当事者からの追及の手が及びにくいように対策してくる可能性もあると思います。
A社のような業者は、用いてもいいかもしれませんが、足元をすくわれないように十分気を付けてください。
(参考3)移転や法人名の変更は悪質業者の常套手段
不動産業者が何か問題を起こすと、事務所を移転したり、会社名の変更をすることがあります。
例えば、法的なトラブル(訴訟など)に発展しそうな場合に、会社を清算して、エリアを変えて、事業を継続させることがあります。
小手先の対応のように見えますが、実際にトラブルに遭った側からすると、追及の手が止まってしまうことがあります。
また、資本関係や役員を変えると、まったく違う法人になるので、ほぼ分からなくなります。
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