老後に向けた不動産・自宅の考え方~やめた方がいい物件5つの特徴

今回のテーマは老後に向けた不動産・自宅の考え方です。私たちにとって一番身近な不動産と言えば「自宅」ですが、持ち家の方、賃貸の方、親類と同居している方など、自宅の実態は様々だと思います。

そして、自宅が持家なのか、賃貸なのかによって、将来的な住居費負担も大きく変わってきます。自宅に関しては、「持家派」と「賃貸派」が分かれており、それぞれの主張も納得できるものが多いところです。

しかし、「老後の生活」に焦点を当てて検証してみた場合、ある一定の結論が出ると思っています。「持家」と「賃貸」、どちらの方がいいのか、購入をやめた方がいい物件の特徴などを交えて解説していきます。

原則としては、老後に向けて自宅を確保してほしい

よく経済誌や住宅情報誌などで「持ち家vs賃貸 どちらがトクか?」などの特集が掲載されますが、どちらが得なのかはっきりしない結論の内容も多く見受けられます。

実際どうなのか気になったので、筆者なりに賃貸と売買の相場をリサーチして、どちらが得なのか検証してみたこともあります。

これはあくまでも筆者の見解ですが、原則としては老後に向けて自宅を確保することを推奨します。長期シミュレーションを試みましたが、老後のことを考えれば「持家」の方が良いのは間違いないと思います。

例外は、
(1)住宅ローンを組まずに与信枠を不動産投資に傾けて拡大を目指す方、あとは(2)「不動産の所有に向かないエリア」に住んでいる方です。ちなみに、不動産の所有に向かないエリアとは、築古物件の値下がりがひどいエリア、賃貸ニーズが乏しいエリアです。

お仕事やご家庭の事情で、どうしてもそのエリアに住み続ける必要があるのであれば、十分に安くなった築古物件を思い切り安く買って、フルリフォームする方が経済的にみれば合理的です。600万で買って500万でリフォームするなど、です。

また別の側面からの話になりますが、「賃貸」にはもう一つ問題があります。賃貸住まいの場合、高齢者の入居は大家さんから敬遠されることが多いものです。理由は死亡リスクや認知症による近隣トラブルのリスクが高まるからです。そのため、老後は借りられる物件自体がそもそも限られてくるのです。

以上のことから、原則としては、老後に住む自宅を確保しておくことを意識してほしいと思います。そして、賃貸住まいの方は、できれば今支払っている家賃を住宅ローンの返済に回していくと、より将来の家計が楽になっていくと思います。

老後に向けて自宅購入を勧める3つの理由

さて、ここで自宅購入、「持家」を推奨する理由を今一度整理してみます。大きくいうと前述の理由ですが、もう少し細かくまとめると以下の3点に整理できます。

老後に向けて自宅購入を勧める理由(1)老後の借家住まいは金銭的にきつい。

持家と借家では、住居費の負担が違います。参考になりそうな統計を探してみたところ、以下のようなデータがありました。

総務省の「家計調査 家計収支編」(2022年)です。

この統計では、「住居の所有関係別」で住居費を把握することが出来ます。「持家」「民営借家」「公営借家」「給与住宅」「給与住宅のうち寮・寄宿舎」に分かれております。年齢別のデータではないのですが、所有関係別のデータとしてとても参考になります。

〈用途分類〉1世帯当たり1カ月間の収入と支出「8. 住居の所有関係別」単身世帯

【単身世帯の場合】
「持家」 7,363円/月
「公営借家」35,514円/月
「民営借家」54,406円/月

これは単身世帯のデータですが、いわゆる賃貸暮らしの場合、「民営借家」「公営借家」となります。割安感のある「公営借家」の場合「35,514円」となりますが、「民営借家」の平均住居費は1カ月あたり54,406円となります。やはり「持家」の7,363円に比べると負担が重いのが分かると思います。

仮に「老後」を65〜85歳の20年間で計算すると、老後にかかる住居費の合計は以下になります。持ち家はローン返済を終えてしまえば、当然賃貸住まいよりも支出を抑えることが出来ます。

「持家」 7,363円/月 × 12ヶ月 ×20年 = 1,767,120円
「公営借家」35,514円/月 × 12ヶ月 ×20年 = 8,523,360円
「民営借家」54,406円/月 × 12ヶ月 ×20年 = 13,057,440円

以前の記事でも解説しましたが、「老後資金2000万円」問題は、賃貸住まいのご家庭には一層厳しい内容となっています。

老後に向けて自宅購入を勧める理由(2)高齢者は家を借りるのが難しい

総務省統計局がまとめた「平成30年住宅・土地統計調査」によれば、高齢者で1人暮らしの世帯の賃貸物件利用率は33.5%となっています。この結果からは、高齢者でもそれなりに多くの賃貸物件が借りられると推測されます。

ただ、一方で次のようなデータもあります。全国宅地建物取引業協会連合会は2018年12月、会員(不動産仲介業者)に対して行った「高齢者への賃貸住宅の斡旋に関する調査」によると、高齢者への斡旋に対して消極的な回答が大半を占めました。

「積極的に行っている」7.6%
「諸条件により判断している」56.1%
「消極的」が11.5%
「行っていない」24.8%

高齢者の入居が敬遠されがちな理由としては、「孤独死」「認知症」「家賃滞納」があります。

高齢者が1人で暮らしている場合、部屋の中で体調が悪化してしまい、そのまま亡くなってしまうケースがあります。これが孤独死です。貸主としては事後処理が大変になってしまうだけでなく、物件の資産価値を低下させる要因にもなってしまいます。そのため、高齢者の単身世帯に部屋を貸すことに消極的になってしまう面があるのです。

「認知症」については、トラブルが付いて回ります。トラブルの事例としては、「バルコニーでの放尿」「(入居者が)パニック症候群で警察を呼んだ」など、認知症の高齢者による奇行は近隣住民との摩擦を起こしやすく、結果的に同じアパートやマンションの別の入居者の退去を引き起こしてしまうことが多いようです。

また、「家賃滞納」も貸主にとっては深刻です。収入が年金に限られてしまうほか、老後資金に余裕がない人もいるため、家賃を滞納されてしまうのではないかといった懸念も生じているようです。特に高齢者の場合は家賃を滞納されると、後から回収するのが難しいといった背景もあるようです。

このように、貸主側の視点に立ってみれば、高齢者に部屋を貸すことにリスクを感じてしまうので、高齢者の入居は敬遠されてしまう傾向にあるのです。

老後に向けて自宅購入を勧める理由(3)インフレヘッジ

この記事を書いているのは2023年の秋ですが、今現在、各種物価の上昇がニュースなどで騒がれています。バブル崩壊後のデフレで苦しんだ方々にとっては、少し違和感があると思いますが、エネルギー資源や資材価格の高騰、食品の値上がりなども家計を圧迫しています。

よく言われることですが、インフレに対するリスクヘッジとしても自宅を持っておくことは重要です。土地の価格も上がっており、将来的に賃貸住まいを続ける場合、家賃がかなり高くなってしまう可能性もあります。

事実、東京都内は顕著ですが、ある程度立地の良い賃貸物件はジワジワと家賃が上がっています。筆者のクライアントも、賃貸物件の空きが出る度に、2000円くらいずつ家賃を上げて新規入居者を募集しています。

もちろん、もしあなたが老後に、交通利便性の悪いエリアや、そもそも賃貸ニーズの低いエリアの物件に移住してしまえば、ある程度家賃は抑えられます。しかし、買い物や外食、娯楽などの面では、あなたの老後の生活の利便性が著しくが下がってしまう懸念はあります。

物件選びは注意して やめた方がいい物件5つの特徴

(1)維持費がかかり過ぎる物件

維持費がかかり過ぎる物件は老後の生活を圧迫します。維持費がかかる物件としては、古民家や温泉付き物件などの特殊な例もありますが、多いのは区分マンションです。区分マンションの所有者は毎月の管理費・修繕積立金を支払いますが、これらが高すぎる物件はパスする方が無難かもしれません。

(2)値下がりが激しいエリアの新築・築浅物件

不動産の値下がりが激しいエリアの物件も要注意です。日本各地の不動産相場を調べると分かるのですが、新築・築浅物件の値下がりが激しいエリアがあります。

(参考)「自宅を買うならどのエリア? 買った後の不動産はどのくらい値下がりするのか」

新築・築浅で買った物件が、30年後には買った時の3割くらいなってしまうこともよくあります。一方で、30年後でも6割くらいの価格をキープしているエリアもあります。新築・築浅を購入するのであれば、そういうエリアで購入する方がよいでしょう。

(3)管理状態の悪い区分マンション

これは特に区分マンションで注意すべきですが、管理状態の悪いマンションはパスしたほうが無難です。仮に一戸建てであれば、自分だけの権限でいかようにもリフォーム・リノベーションできますが、区分所有のマンションは、多数の所有者がいるのでリフォーム一つでも簡単に実施することができません。

しかも、管理状態が悪いマンションは、所有者の意識が低いことが明らかです。修繕や資産価値の維持に意識が低かったりします。そうすると、当該マンションを売却するときに価格が大きく減価していくことにつながります。

(4)修繕費がひどくなりそうな物件

これも上記(3)に通じるところですが、外壁や共用廊下、エントランスなどの共用部で損傷が多くみられる物件は特に注意が必要です。必要な修繕を行っていないことが明らかだからです。

単に管理組合の意識が低いだけでなく、将来の大規模修繕に向けた積立金に不足が生じている懸念もあります。NHKの番組などでも取り上げられましたが、きちんと直すための修繕ではなく、かろうじて生き延びるための最低限の修繕をしている老朽化マンションもあります。そのような物件は、いくら安くてもあなたの老後を脅かす存在になるでしょう。

(5)賃貸ニーズのない物件

賃貸ニーズのない物件は、売買価格も低くなりがちです。分かりやすいのは利便性の極端に悪いエリアです。仮に転勤等の理由で自宅に住めない場合、賃貸ニーズがないエリアの自宅は足かせになってしまいます。住宅ローンの負担と、転勤先での住居費が発生するため、二重払いになってしまうからです。うまく自宅を賃貸できれば問題ないのですが、おそらくは極端に安い家賃で貸すことになるでしょう。

少し本論から外れますが、仕事などの理由でどうしても賃貸ニーズのないエリアで住む必要がある場合は、無理に自宅を買ったり建てたりせずに、安い賃貸住宅で過ごすほうが経済的です。

自宅を買ったほうが老後は安心 家賃の支払いを資産構築の原資にする

今回は自宅の購入についてまとめてみました。今の日本の住宅事情は高齢者にとっては少々厳しい現実があります。

私たちにとって一番身近な不動産と言えば「自宅」ですし、自宅の購入も立派な不動産投資になります。老後に備えて、価値が下がらない物件を買うのが鉄則となりますが、家賃の支払いをローン返済に充てて資産構築を図るだけで、あなたの老後は経済的にぐっと楽になるはずです。

エリアごとの価格推移などの情報も別記事でまとめていますので、是非ご参考にしてみて下さい。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。