「資産管理会社」という存在をご存知でしょうか。資産管理会社は、不動産投資や資産形成を行っている人が自らの資産を管理する目的で設立する会社のことを言います。個人の資産管理を事業目的とし、自分で設立して自分のためだけに業務を行うため、「プライベートカンパニー」と呼ばれることもあります。
会社法人を設立することで様々なメリットが生まれるため、一定の収入や資産を持っている人、特に相続税の節税対策が必要な方、会社オーナーで親族等への事業承継を控えている方の間では、資産管理会社を積極的に活用する動きが広がっています。
一方、サラリーマンの中でも副業で収入を持つ方などを中心に、資産管理法人を作ろうとする方も増えているようです。一般論として、年収700万くらいから資産管理会社を持つメリットがあると言われておりますが、実は収入の内容よって有利・不利は変わってきます。
そこで今回は、資産管理会社のメリットやデメリット、そしてどのタイミングから資産管理法人を設立すべきか、などについて解説します。
資産管理会社のメリットは?
資産管理会社の主なメリットは節税です。法人と個人では、税務上の違いがあるため、資産家・富裕層の人たちが自らの事業を法人化する例は多くあります。資産管理会社を使うことによって、受けられるメリットを以下にまとめます。
(1) 税率の違いによる節税効果
資産管理会社のメリットの一番目は所得税と法人税の税率の違いによるものです。特に高額所得者の場合、個人の所得税の税率は、法人で保有した場合の法人実効税率より高いことが多いです。個人の場合。所得税の税率は下表のようになります。
課税される所得金額 | 所得税率 | 住民税率 |
195万円未満 | 5% | 10% |
195万円から 330万円まで | 10% | 10% |
330万円から 695万円まで | 20% | 10% |
695万円から 900万円まで | 23% | 10% |
900万円から 1,800万円まで | 33% | 10% |
1,800万円から4,000万円まで | 40% | 10% |
4,000万円以上 | 45% | 10% |
出典:国税庁 所得税の税率
一方、小規模の資産管理会社の法人税等の実効税率は下表のとおりです。実効税率は、法人の所得金額に対する法人税、地方法人税、住民税、事業税の額の合計額の割合です。言い換えると合計税率と言えます。
(資本金1億円以下、東京都の場合)
所得金額 | 実効税率 |
400万円以下 | 21.421% |
400万円超~800万円以下 | 23.204% |
800万円超 | 33.585% |
こうして比較してみると、いくつか気が付くことがあると思いますが、やはり大きいのが所得が高くなった場合の税率の違い。法人は税率の上限が33.585%であるのに対し、個人の場合、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%。
個人の場合、給与収入900万円くらいで「課税所得695万円」近くになりますが、その場合、所得税は23%、住民税は10%なので、合わせた税率は33%となります
一方、法人(資産管理会社)の場合、課税所得も800万円以下であれば、税率(法人住民税等を含めた実効税率)は約23.2%となりますので、大きな差が出ていることが分かります。
個人の所得税には各種控除があるので、法人の実効税率と単純に比較はできません。ただ、個人の所得税は、所得が高ければ高いほど税率が高くなるため、法人よりも税金の負担が重くなるのはお分かりいただけると思います。
(2) 経費の違いよる節税効果
個人と法人(資産管理会社)では、経費として認められる支出にも違いがあります。個人の場合は事業に直接関わる部分だけしか認められないのに対し、法人は一部の間接経費も認められるため、経費として損金扱いしやすくなります。たとえば、法人の場合、事務所賃料や交通費、打合せ(会食)費などを経費化することが可能です。
また、メリットが大きいのは、役員報酬の計上により自分以外の家族(特に所得の低い家族)に所得を分散できることです。 特に所得の低い家族を役員とすることで、所得分散による節税効果を期待することが出来ます。
(3) 繰越欠損金の違いによる節税効果
このほかにも、欠損金(赤字)の繰越が、個人が3年までなのに対して、法人が9年まで認められるなど、法人に有利な点もあります。特に設立したばかりで創業赤字を多く計上できる場合などは、とても重宝します。
特に不動産投資を考えている方には、資産管理会社が有利になる場合も多いです。不動産投資は初期費用が大きくかかるため、欠損金の繰越が認められる期間が長ければ長いほどメリットが出てきます。
資産管理会社のデメリット
次に、資産管理会社を設立する場合のデメリットもあります。
(1)事務処理の煩雑さ
一つ目は事務処理の問題です。資産管理会社という新たな法人を維持する必要が生じるため、新たに事務的な負担が新たに発生します。個人事業者の時は所得税や住民税だけを支払っていたところに、資産管理会社の法人税や事業税支払いが加わることになります。そのための経理処理が複雑になるのは仕方のないことです。
(2)法人住民税の負担
二つ目はコスト面での負担です。資産管理会社は、たとえ主だった活動をしていなかったとしても、毎年課税される税金があります。それが法人住民税の均等割。均等割の税額は資本金等の条件によって異なりますが、最低でも7万円です。(公共法人・公益法人等は除きます)この金額は仮に法人が赤字決算であっても最低7万円が必要になります。
(3)社会保険料の負担
会社を設立すると、たとえ社員が一人だとしても社会保険に加入しなければなりません。経営者が支払うべき社会保険料も事実上の自己負担となります。普通の給与所得者であれば、社会保険料の負担は会社と労働者が折半するため、社会保険料の半分を支払えば済みますが、資産管理会社の場合は、会社と役員の両方が自分自身もしくは身内です。
ただし、資産管理会社で役員の社会保険料を負担するということは、役員個人にとっては社会保険による保証が厚くなるということです。これはメリットである一方で社会保険料の支払い義務というデメリットと表裏一体と言えます。
年収がいくらになったら資産管理会社の設立を検討する?
次に問題になるのは、どのくらいの収入・資産があれば資産管理会社を持つべきなのか、ということ。資産管理会社の検討をする年収は、事業内容や社会保険の状況などにより異なりますので注意が必要です。
一般論として、15%~55%の所得税率(住民税含む)と、21%程度~34%程度の法人税率(住民税等含む)の有利・不利が入れ替わるのは、副業と合わせて年収700万円程度となるケースが多いと言われています。
ただ、サラリーマンの場合は副業で収入があることが前提になります。また、法人には維持コスト(各種税金・申告時の税理士報酬など)もかかるほか、確定申告や納税等の手間もかかります。
そのため、単純に個人と法人の税率の違いだけではなく、個人の各種控除、および法人の維持コストをも含めた比較が必要です。少しの税率の違いであればそんなにメリットは出ないのが現状ではないでしょうか。
そう考えると、本当に資産管理会社の優位性が発揮されてくるのは、給与収入以外の収入(事業収入・不動産収入など)が多い人や、サラリーマンでも年収1500万~2000万くらいのステージかもしれません。
資産管理会社の活用 不動産投資の場合
さて、資産管理会社の活用について、少し実例をご紹介します。
不動産投資の場合、資産管理会社を以下のように活用できます。
1 初年度赤字を長く繰り越せる
不動産投資の場合、不動産購入時に大きな支出があります。仲介手数料、抵当権設定費用、登記費用、など。小さな物件であっても数百万の費用がかかるため、初年度は赤字になることがほとんどです。
個人事業の場合、欠損金の繰越は3年までですが、もし3年で欠損金を消化できなければ、せっかく計上した欠損金を無駄にしてしまいます。法人の場合は9年繰越が可能となるため、余裕をもって欠損金を消化させることが出来ます。
2 経費化できる範囲が広い
個人事業の不動産賃貸業は「5棟10室」というのが事業的規模の基準となります。それ未満は事業的規模と見なされないため、経費化できる支出は限られてきます。
一方、法人で不動産を取得していれば、そのような制限はありません。およそ事業に関わる支出であれば、ほぼすべて経費化することが出来ます(本当に事業に関わっていれば)。
3 事務処理が比較的簡単
不動産賃貸業の場合、収入は大体決まっており、大きく変動することは多くありません。経費も比較的決まった費目が多いので、決算書を作成する際も簡単にできると思います。
4 お金の流れを明確に分けられる
資産管理会社で不動産を持つと不動産賃貸業にまつわるお金の流れを、個人事業のお金の流れと明確に分けることが出来ます。これは、経理処理の簡便さにメリットがあるだけでなく、お金を貸してくれる銀行から見ても好ましいことです。
5 個人と法人で所得分散できる
ある程度所得が高い個人が、不動産投資・不動産賃貸業で収入を持つようになると、多くの場合で高い税率を課されてしまいます。
例えば、個人の給与所得が900万の方は税率33%(所得税23%+住民税10%)ですが、ここに100万円の不動産所得が上乗せされると、900万超の税率43%(所得税33%+住民税10%)が課せられます。43万円が税金で持っていかれる計算になります。
一方、法人名義で不動産を所有させた場合、年間100万円の不動産所得があったとするならば、実効税率は21.4%ほど。個人の場合の43%と比較すると、かなり少ない金額で済ませることが出来ます。
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よくある質問
Q. 資産管理会社はサラリーマンでもつくれる?
A. 株式会社や合同会社など形態は様々ですが、一般的な形式なら法務局へ登記すれば、誰でも設立できます。
サラリーマンの場合は、本業の会社の就業規則などで副業禁止規定があることがあります。内容をよく確認しておくことが必要です。不動産賃貸や株式などの売買は認められていても、副業が禁止されている場合、他の会社(資産管理会社)から給料をもらうことは認められないケースもありますので是非注意してください。
Q. 資産管理会社を設立するとしたら、年収どのくらいからが検討対象になる?
A. サラリーマンが資産管理会社の検討をする年収は、事業内容や社会保険の状況などにより様々です。
ただ、15%~55%の所得税率(住民税含む)と、21%程度~35%程度の法人税率(住民税等含む)の有利・不利が入れ替わるのは、副業と合わせて年収700万円程度となるケースが多いのではないでしょうか。ただ、前述のように法人の維持にも手間とコストがかかりますので、実際にメリットが出るのはもう少し所得が高くなってからだと思います。
所得税と法人税以外にも、社会保険料や設立費用なども考慮した上で、資産管理会社を作るかどうか検討して頂きたいと思います。
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