今回のテーマは準富裕層とリタイア(退職)。少し所得の高いサラリーマンであれば、「資産を5000万貯める」という目標を持っている方もいらっしゃると思います。実は資産5000万円というのはいわゆる「準富裕層」の定義でもあります。準富裕層の仲間入りをしたら仕事を辞めてゆっくりしたい、という方も多いのではないでしょうか。
しかし、いくら準富裕層とはいえ、リタイア後の生活をきちんとイメージしてリタイア後の生活を計画していないと思わぬ落とし穴にはまってしまうことになりかねません。後述しますが、実は「準富裕層」の資産規模では安心してリタイアすることはできません。
ある程度余裕を持った生活を送るためには、どうしてもリタイア後も継続的に収入を得ていかなければなりません。今回は、リタイア後の生活を計画するうえで必要な情報をまとめつつ、準富裕層になってリタイアすることのリスクや、リタイア後も安定的な生活を送るための不労所得構築の必要性について解説していきます。
資産5000万円の「準富裕層」は幸せなリタイア生活の入口になり得るか?
一般的に「準富裕層」とは、5,000万円以上1億円未満の層を指すと言われます。野村総合研究所が発表したレポートの定義によると、2019年の推計では「準富裕層」は341.8万世帯と言われています。
(出典)野村総合研究所『日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計』
さて、一般的にはお金持ちの部類と認識される「準富裕層」ですが、特に若くして仕事を辞める早期リタイアについては、なかなか厳しい現実が待っています。
特にコツコツ資産を貯めてきたサラリーマンの場合、「5000万貯めたらリタイアしよう」そう思っている方も少なくないと思います。「いつかは仕事から解放されて楽になりたい」と思っている方のうち、少なくない方が、準富裕層の基準である「資産5000万」という区切りを目標にリタイアを考えているようなのです。
しかし、リタイアするということは、労働から収入を得ることができなくなることを意味します。いかに資産を5000万円貯めた「準富裕層」であっても、資産を切り崩していく生活はとても厳しいものとなります。
仮に年間生活費が500万もかかるならば、準富裕層とはいえ、10年ちょっとで、資産はすっかりなくなってしまいます。安心してリタイア生活を送るためには、巨額の資産を蓄えた後、少しずつ資産を切り崩して生活していくか、自分の労働以外から収入を得る仕組みを作っておくか、の2通りしかありません。
(1) 巨額の貯蓄を得て切り崩す
実際にはかなり難しい選択肢となります。特に若くしてリタイアしようとする場合、労働収入を得ない「無収入期間」を過ごす割合が多くなるので、その分切り崩す貯蓄も大きなものを要求されます。
準富裕層は純資産額「5000万円~1億円」を保有する世帯ですが、仮に準富裕層であっても一年の生活費が仮に500万円だったとすると、10年~20年で使い果たしてしまいます。
(2) 不労所得を生み出す資産を持つ
もう一つのパターンが、働かずに収入を生み出す不労所得を持つという選択。収入を生み出す資産を持つ、言い換えるならば、不労所得を構築するということ。そこで生まれる収入でリタイア後の生活費を補填するシナリオです。
不労所得については、別のコラムで解説していますが、その構築には、いくつかパターンがあります。
(なぜ富裕層ほど不動産投資、不労所得に騙されてしまうのか?解説)
準富裕層がリタイアする前に知るべき3つの基礎知識
いくら準富裕層といえども、リタイアするにしても色々と準備が必要なものです。準富裕層がリタイア前に知っておきたい情報をいくつかご紹介します。
(1)リタイア後の生活費はどのくらいかかる?
毎月の生活費は、世帯の人数、年齢、生活水準などによって大きな差があるので一概には言えませんが、一つの参考資料として総務省統計局「家計調査(収支報告編)」のデータをご紹介します。
同調査によると、2020年の世帯人数2人の場合における毎月の平均的な生活費(消費支出)は233,568円となったそうです。これを高いとみるか、低いとみるかは各々の事情によると思います。
ただし、これは全世帯の平均値であり、今回テーマとしているリタイアを望む世帯と、子育て中で教育費がこれからかかる世帯とは、支出の額・内訳が大きく違うと思います。
(2)「老後資金2000万円」説とは?
2019年6月に金融庁から、金融審議会 市場ワーキング・グループがまとめた「老後資金の必要額は2,000万円」とする趣旨の報告書が提出され、日本中で大きな話題になりました。
「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では、毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる。」
(出典:金融庁審議会 市場ワーキング・グループ報告会「高齢社会における資産形成・管理」)
つまり、2,000万円の根拠は「毎月5万円の生活費の不足」が基準となっている訳です。
この報告書によると、「老後を迎える夫婦」のモデルケースでは、平均的な収入が約20.9万円/月、支出の平均が約26.4万円/月、その差額は約5.4万円/月となっており、毎月5万円以上の赤字になることが示されています。
仮に老後の生活が30年続いたとすると、2,000万円近くの資産を取り崩す必要が出てきます。これが、「老後資金2000万」説の根拠となります。
ただ、同報告会の中でも、「この金額は、あくまで平均的な不足額から導き出したものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。」との言及もある通り、以下のような要素の違いによって、各世帯の状況によって必要な金額は大きく変わってきます。
1)住宅の所有状況
2)退職金の有無、及び確定拠出年金の状況
3)定年退職後の収入の有無
(3) 老後の年金はどのくらいもらえるのか?
リタイア後の生活を考えるうえで、年金の存在はとても重要なものです。年金は老後の主な収入源ですが、今の日本の制度では、年金はどのくらい支給されるものなのでしょうか。
日本の公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2種類で「2階建て」と言われることもあります。現行制度では、保険料をしっかり納めていれば65歳から年金が受け取れます。
(国民年金の受給額)
国民年金の受給額は保険料の納付月数で決まります。平均受給月額は、約5万6,000円と言われていますが、20歳から60歳までの40年間きっちり保険料を納めたのであれば、約6万5,000円を受け取ることができます。
(厚生年金の受給額)
厚生年金は、保険料の「納付月数」と「収入(平均標準報酬)」で受給額が変わります。加入時期によっても計算式が異なり複雑なため、以下にあくまでも参考ですが、年収別での概算資料を作成しました。
■(収入別)厚生年金受給額の目安
平均標準報酬 | 年金受給額の目安(月額) | 年金受給額の目安(年額) |
---|---|---|
20万円/月 | 約4.3万円 | 約52万円 |
25万円/月 | 約5.4万円 | 約65万円 |
30万円/月 | 約6.5万円 | 約78万円 |
35万円/月 | 約7.6万円 | 約92万円 |
40万円/月 | 約8.7万円 | 約105万円 |
45万円/月 | 約9.8万円 | 約118万円 |
50万円/月 | 約10.9万円 | 約131万円 |
(各世帯の年金受給額)
年金の受給額は職業によって異なりますが、平均値は以下の通りです。(出典:厚労省「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)
自営業や専業主婦など(国民年金のみ) …約5万6,000円/月
会社員や公務員など(国民年金+厚生年金)…約14万5,000円/月
これをもとに、世帯の構成人数、属する年金の種類によって、各世帯の受給額は変わってきます。
世帯構成員の職業 | 年金加入状況 | 世帯受給額 |
---|---|---|
夫婦ともに自営業 | 二人とも国民年金 | 約11万2,000円/月 (約5万6,000円/月 2人) |
会社員と専業主婦(主夫) | 片方が厚生年金と国民年金 もう片方が国民年金 | 約20万1,000円/月 (約14万5,000円/月 1人) (約5万6,000円/月 1人) |
夫婦とも会社員 | 二人とも厚生年金と国民年金 | 約29万円 (約14万5,000円/月 2人) |
準富裕層がリタイアするための条件 「月額24万」を稼ぐ不労所得を構築すること
前述のとおり、2020年の世帯人数2人の場合における毎月の平均的な生活費(消費支出)は23~24万円。年間だと290万近くの出費になります。
資産5000万円超の「準富裕層」であっても、「貯蓄を切り崩す」ことが前提であれば、無収入の期間が15年以上続くようであれば、決して安心した生活を送れません。
もちろんある程度年齢が高くなってからリタイアする場合は年金を受給できるので、年金を織り込むこともできますが、それよりも早くリタイア生活を送りたい場合は、どうしても無収入期間が長くなってしまいます。
ですから、生活に不安なくリタイアしたいならば、資産を切り崩さずに済むよう一定の「不労所得」を得ることが重要になります。不動産や金融商品への投資で資産運用をし、不労所得を得られる段取りをリタイア前にしておくことが必要です。
準富裕層の資産で十分な不労所得をつくれるのか?
それでは、「準富裕層」世帯の資産でどのくらいの不労所得を構築できるのでしょうか。金融資産5,000万円を全額投資に回したと仮定して資産運用してみた例を検証してみます。不労所得の代表例として、「株式の配当」と「REITの配当」そして「不動産投資」の家賃収入を例に挙げて検証します。
(1)株式配当による不労所得
日本国内の株式運用の場合、高配当の銘柄のみでポートフォリオを組んだとしても、年5%程度の利回りとなるのが現実的です。金額で言えば、5,000万円の金融資産をすべて株式につぎ込んだとして、年間250万円。
なお、上場株式の配当金に係る税率は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)なので、手もとに残るのは200万円以下になります。ただ、理想となる「月額24万円」の生活費をカバーするのは難しいことが分かります。
加えて、高配当の株式の場合、価格変動が大きい銘柄も多く、市況次第で5,000万円の元本(金融資産)が大きく目減りするリスクが内在しますのでその点は注意が必要です。
(2)REIT配当による不労所得
REIT(不動産投資信託)は平均利回りが高いとされていますが、利回りは多くが3~5%くらい。高くても年6%程度です。先ほどの株式配当収入と同様に、20%強を源泉徴収されると240万円以下の手取額となります。株式の配当よりも高いですが、やはり、リタイア後の生活コストを賄うには物足りないと思います。
(3)不動産投資による不労所得
不動産投資と言えば不労所得の代表格ですが、5000万円をすべて使って中古アパートを現金で購入したとすると、どうなるか簡単に計算してみましょう。
仮に表面利回り8%だとすると、満室時の賃料収入は400万円、運営経費(管理委託費・租税公課など)が家賃収入の15%程度、空室損を10%程度と仮定すると、手取りの収入は満室想定時の賃料の75%、300万円(400万円×75%)となります。ここから税金が引かれますので、結果的には、株式やREITの配当収入に近い結果になります。
準富裕層の資産額で十分な不労所得をつくるには?
このように、実際問題、準富裕層が5000万円の資産運用だけを当てにして早期リタイアしてみると、配当収入は200万前後となり、多くの方が生活レベルを大きく下げざるを得ない現実に直面します。
また、上記3つ以外にも国債などの債券で資産運用することも可能ですが、少なくとも日本国債は上記3つよりも利回りが格段に低いため、不労所得の構築手段としては採用しにくい選択肢となります。
準富裕層の資産規模で「早期リタイア」を目指すためには、先ほど試算した株式・REITの配当収入以上のリターンを目指すか、もうしばらく仕事を続けて「富裕層」レベルの資産を貯める方向性の二択ということになると思います。
(1)海外で高配当の投資商品を探す
日本国内の投資商品はある程度リターンの幅が限られるので、富裕層・準富裕層の方々の中には、海外に投資商品を求めていく方がいらっしゃいます。海外であれば、債券や株式でもハイリターンのものが存在するのは確かです。リスクが高くなるのは否めませんが、きちんと情報収集して、その商品で利益を上げ続けている先達者から然るべく指導を受けることが前提ですが、可能性はあると思います。
(2)不動産投資でレバレッジを活用する
さて、先ほどは現金でアパートを一棟丸ごと購入する前提でリターンを計算しましたが、不動産投資の現場では、多くの場合「ローン」を使います。
何を隠そう不動産投資の特長の一つが「レバレッジ」。金融機関からの融資をうまく使って大きなリターンを得ることが可能になります。
そして、レバレッジを利かせた不動産投資のメリットは、「他人から支払われた家賃収入」で「あなたの借入金を返済できる」こと。つまり、他人のお金で銀行に返済を行い、完済してしまえば、そっくりそのまま無担保の不動産があなたのものになる、ということです。
きちんと毎月のキャッシュフローがプラスの状態で運営できていれば、どんどん残債務が減っていくため、毎月キャッシュフローを得ながら、最終的には無担保の収益不動産があなたの手元に残ることになります。
レバレッジを活用した不動産投資のリターン例は別稿にまとめていますので、ぜひご参照ください。
「40代の準富裕層ってどんな人?資産5000万円を持つ人とは?」
この条件下であれば、準富裕層の資産背景でも十分に安心できるリタイア生活を送れると思います。ぜひ参考にしてください。
準富裕層になってリタイア まとめ
・一般的にはお金持ちと言われる準富裕層(純資産5000万円以上)だが、年金がもらえる年齢になる前に、早期リタイアしてしまうと、「無収入期間」が長くなり、生活は不安定になる恐れがある。
・あくまで参考情報であるが、世帯人数2人の場合における毎月の平均的な生活費(消費支出)は233,568円と言われる(2020年総務省統計局「家計調査(収支報告編)」より)
・準富裕層が安心してリタイア生活を送るためには、(1)巨額の貯蓄を得て切り崩す (2)不労所得を生み出す資産を持つ、の2通りの方法がある。
・準富裕層がリタイアするための条件 「月額24万」を稼ぐ不労所得を構築することが必要。
・日本国内の一般的な資産運用では得られるリターンが限られており、準富裕層の資産運用を通じて十分な不労所得をつくるのは厳しい状況。
・準富裕層の資産規模で「早期リタイア」を目指すためには、日本の常識的な株式・REITの配当収入以上のリターンを目指すか、もうしばらく仕事を続けて「富裕層」レベルの資産を貯める方向性の二択になる。
・もっとリターンが高い投資としては、(1)海外で高配当の投資商品を探す、(2)不動産投資でレバレッジを活用する、の2パターンがある。いずれも難易度が高く専門知識が必要なので、良い専門家・アドバイザーを見つけることが肝要。
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