前の記事で、「不動産の所有に向かないエリア」について言及した際、「不動産価格が値下がりしやすい」エリアでの自宅購入は避けた方がよいと解説しました。
自宅を買う上で特に避けたいのは、買った後に物件価格が値崩れする状況です。値下がり幅が大きいと、家賃を払い続けたのとあまり変わらない状況になる可能性もあります。そのような事態に陥らないためにも、自宅を検討しているエリアの相場はしっかりとチェックしておきたいものです。
そこで今回は、築古物件がどのくらい値下がりするのか統計を用いながら解説したいと思います。築浅物件と築古物件の比較をエリアごとにまとめている資料として、ここでは二つの統計をご紹介します。
1. 東日本REINS 首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年帯別成約状況
一つ目は、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表している「首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年帯別成約状況」です。
この資料は四半期毎に発表されており、首都圏にある中古マンションと中古戸建の成約価格を築年数とエリアごとにまとめています。下表は、この統計から「~築5年」と「築30年~」を比較した時の減価額と減価率が分かるように加工したものです。
これを見ると、まず中古マンションと中古戸建で減価率が違うのが分かると思います。中古マンションで6割くらいの減価、中古戸建はエリアによってバラつきがありますが、4割~5割減くらいになると思います。戸建は建物が古くなっても土地が残るので、ある程度の水準(土地値)で価格が下げ止まることが理由かと筆者は推測しています。
減価額で言うと、中古マンションで大体3000万~4000万円、中古戸建だと1000万~2000万円くらいとなっています。築浅物件を買って30年近く保有すると、このくらいの値下がりは覚悟する必要がありそうです。
次にエリアに注目してみると、東京都、とくに都区郡の減価率が低い(値下がりしにくい)のが分かると思います。あとは横浜・川崎エリアの減価率は低く抑えられています。いわゆる住宅として人気のエリアは値下がりしにくいのですが、反面価格が高いのも統計に表れています。
なお、このデータは2023年1月~3月までの統計であり、本当はその前後を含めて少し長い期間で確認する必要はありますが、築年数が経過することで、どのくらいの値下がりが起こるのか、どのあたりのエリアが値下がりしやすいのか、あるいは値下がりしにくいのか、は十分に分かると思います。
※本当は、首都圏以外の全国的なデータも欲しかったのですが、該当するデータを見つけられなかったので、今回まずは首都圏のデータを紹介させていただきました。
2.「収益物件 市場動向 四半期レポート」(健美家)
次に紹介する統計は、収益不動産の情報サイト「健美家」が発表している「収益物件 市場動向 四半期レポート」です。
こちらは、先ほどのレインズのデータと違って投資用物件(収益物件)の統計です。そのため、自宅用の物件とは若干色合いが違ってくるのはご理解ください。ただ、築年数の経過による価格変動、そしてエリアごとの価格変動の特徴も見て取れるため、今回紹介いたしました。
下表は、健美家のレポートから、築年数の経過による減価額・減価率を把握できるように加工したものです。
注意点としては、レインズのデータよりも母数が少ないので、「異常値」の影響が出やすいところです。「区分マンション」の広島市や、「1棟アパート」の名古屋市などは少し極端な数字になっているので、少し長い期間で検証してみるほうが良いと思います。
先程もお伝えしたように、自宅と投資物件の違いがあるので、このデータがすべて当てはまるわけではありませんが、値下がり幅と相場のイメージは何となく分かっていただけるかと思います。ちなみに区分マンションは多くが単身用(ワンルームマンション)です。
まず全体と見ると、土地がある分、「1棟アパート」の方が「区分マンション」より若干値下がりしにくい傾向はありますが、平均すると大体5割~6割減くらいと言えます。
次にエリア別にみると、かなり特色が出ています。
「区分マンション」では、札幌市、名古屋市、広島市の減価率が高いのが気になります。過去2年にわたって同じ統計を遡っても概ね同じくらいの減価水準なので、このエリアの区分マンションは値下がりしやすいと言えます。
反対に減価率が低めなのが東京23区と大阪市、神戸市です。これらのエリアも、過去2年さかのぼって、同じような水準なので、比較的値下がり幅が少ないと言えます。
「1棟アパート」では、まず名古屋市と福岡市の減価率が低いのが目につきます。
名古屋市は「減価率6.86%」という驚きの水準ですが、この四半期(2023年4月~6月)は築古物件の成約価格が高かったらしいので異常値の可能性があります。ただ、過去2年のデータを見ると大体5000万円台で成約しているので、それでも名古屋市の物件(1棟アパート)の値下がりは少ない方と言えます。
福岡市も相場は堅調のようです。「減価率30.86%」と値下がり幅は低い水準です。過去データを見ても、同じ水準で成約しており、概ね堅調と言えます。
1棟アパートで不動産投資を検討するならば、名古屋市、福岡市は十分検討に値すると思います。ただ、両市ともに広いので、その中でのエリア絞り込みは必要ですのでご注意ください。
他のエリアの減価率は概ね4割~6割の間。若干ですが近畿圏(大阪・京都)の減価率が首都圏(一都三県)よりも高めに出ているように見えますが、そこまで目立つ特徴ではないかな、と思っています。
※ちなみにこの1棟アパートの統計は母数が少ないので、個別の成約案件に影響されやすいことは頭に置く必要があります。
30年後の不動産価格「買った時の4割程度」が目安
さて、ここまで二つの統計をご紹介して、築年数の経過と値下がりついてまとめてみました。大まかな減価のイメージはお持ちいただけたと思います。
概ね30年後の不動産価格は「買った時の4割程度」が目安になると考えればよいと思います。それよりも値下がりが激しいエリアの不動産は買うべきではないと思います。
逆に減価率の低いエリアはメリットが大きいので、手の届く範囲で購入を検討してみたらよいと思います。
これから自宅購入を検討する方は、買った物件が30年後に4割程度になると仮定して、借りた方が得か、買った方が得かを試算してほしいところです。
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