不動産投資の出口戦略 物件の売却価格を予測するには?

今回のテーマは不動産投資の出口。投資でいう「出口」とは、投資した対象(企業・事業など)の売却や転売により投下資本を回収する意味で用いられます。そのため、「出口戦略」と言えば、投下資本の回収を最大化させるための方策・方針といえます。

不動産投資における出口は、その多くが売却。不動産投資家としては、出来るだけ高い値段で売却したいものです。

実は4~5年ほど前から、筆者の周りで物件を売却する方が増え、「出口戦略」についてアドバイスを求められることが多くなりました。ただ、実際にどのくらいの値段で売れるか分からない、という方も多いようです。

そこで今回は、不動産投資でしっかり利益を残していくために、物件売却時の価格目安を予測する方法、そして不動産投資の出口戦略について解説したいと思います。

出口戦略と融資 購入前に出口を予想するためには?

筆者の感覚ではありますが、不動産投資に限って言えば、出口戦略というのはそれほど難しいことではありません。

少々自慢になってしまいますが、筆者のクライアントは、不動産投資でそれほど失敗していません。というのも、買う前から出口の予想をしっかり立てて、失敗しないように物件を買っているからです。

これから買おうとする物件が、将来いくらで売れるのか?それが分かっていれば、自信をもって物件を購入することが出来ますが、出口の予測に必須なものがあります。それが「融資」の知識です。

以下、例を挙げながら、少し具体的に解説していきます。

●次の買い手の融資を予測する

たとえば、新築で買ったアパートが、10年後にいくらで売れるのでしょうか?この問いに自信をもって回答できる方はそんなに多くないと感じています。

「中古物件売買相場なら、不動産情報サイトを調べれば簡単に出てくる」と思った方もいるかもしれませんが、サイトに掲載されている物件情報はあくまでも「出し値」であって成約価格ではありません。

例えば次のような物件を考えてみましょう。

【新築1棟アパート】
・木造2階建アパート 
・埼玉県さいたま市
・利回り7%
・1K×8室(家賃6.3万円平均)
・満室時年間家賃収入 604万円
・物件価格8,630万円

このような物件があったとき、この物件は「買い」でしょうか。融資条件にもよりますが、一応キャッシュフローは出ると思います。ただ、筆者は見送ります。後述しますが、出口まで考えると、投資としてそんなに美味しくなさそうだからです。

●10年後、買い手と融資はどうなる?

例えば10年後にこの物件を売却する際、次の買い手はどこの金融機関を使って融資を受けるでしょうか。答えは属性によって様々でしょう。属性の良い方は、りそな銀行あたりを使ってくるかもしれません。あるいは、地元の信金を使う方もいるかもしれません。

【10年後のこの物件】
・木造2階建アパート(築10年)
・埼玉県さいたま市
・1K×8室(家賃6万円平均):家賃やや下落
・満室時年間家賃収入 576万円

あくまでも筆者の感覚ですが、今の融資環境が継続すると仮定するならば、おそらくこの物件の出口は、木造アパートに積極的なオリックス銀行を使う可能性が濃厚です。

さて、それではこの物件はいくらで売れるでしょうか。利回り8%なら7200万円、利回り7%なら8228万円です。

ちなみに、オリックス銀行では次のような返済シミュレーションを用意しています。

【借入条件の目安シミュレーション】
上記のシミュレーションによると、オリックス銀行でこの物件を買う場合、金利は2.3~3.3%の間、築10年であっても融資期間は最長30年と出力されます。

次の買い手にとって、この融資条件はありなのでしょうか。筆者が経験則をもとに、以下の条件で勝手に収支試算してみました。

・物件価格 7200万円(利回り8%)
・借入希望額 6400万円(物件価格の約9割)
・金利 2.3%
・融資期間 30年

この条件で試算すると、満室時の税引前キャッシュフロー(BTCF)が194万円。空室率を5%程度に設定するとBTCF 165万円となります。

収支的にみて、まあ及第点でしょうか。もしかすると、もう少し利回りが低くても売れる可能性はあるかもしれません。物件価格を7200万円(利回り8%)から7680万円(利回り7.5%)で高値チャレンジすることも可能かもしれません。ただ、それ以上に価格を上げると、正直厳しい(売れにくい)と思います。

●実は新築時7%で買っていた場合、8%で売ってトントン

ここで少し答え合わせです。あくまでも筆者試算ですが、新築時7%でこの物件を購入していた場合、10年後に利回り8%で売却すると、保有期間中のインカムゲインと合わせても、ギリギリでプラスマイナス・ゼロくらいです。

10年も時間をかけて、初期費用も投下して、結果がプラスマイナス・ゼロならば、投資しないですよね。だから筆者ならば、最初からこの物件は見送ります。

もちろんもっと高値(築10年の木造物件を6%で売るなど)で売れる自信があるならば問題ですが、筆者としては、利回り8%くらいが妥当かなと思います。

このように、融資の知識があると、次の買い手の目線や動きが分かるので、出口の精度はぐっと上がります。

きちんとした融資予測がある中で具体的な価格を設定できるので、自信をもって出口予測ができますので是非参考にしてください。

融資の知識を蓄えるためには

さて、ここまで出口を考える上で、融資の知識が必須であることをお伝えしましたが、それでは融資の知識・情報を集めるにはどうしたらよいのでしょうか。

残念ながら融資情勢はある程度のスパンで変わっていきますので絶対の基準はないのですが、次の2段構えで理解しておくとよいと思います。

(1)まずは原則的な融資を覚える

まずは、原則的な融資基準を押さえておきましょう。王道の融資条件と言えます。

・融資期間: 法定耐用年数 - 築年数
築10年の木造の場合、法定耐用年数22年から10年を引いた17年が融資期間

・融資金額: 物件価格の9割
物件価格8割までとする銀行も多いのですが、投資効率を考えるとあまり望ましくありません(あくまでも筆者個人の見解です)。出来る限り9割の融資を実行してくれる銀行を探したほうが良いと思います。

・金利
属性や物件評価にもよりますが、大体以下のような金利水準になると思います。
 都銀の場合 0.7~1%台前半
 地銀の場合 1%台前半~2%
 信金・信組 2.5%以上

(2)不動産投資に積極的な金融機関を探す

次に、少し特殊ですが、不動産投資に積極的な金融機関の情報を集めましょう。不動産投資に積極的な金融機関は、前述(1)の原則的な融資基準のどこかを緩和しています。

具体的な例でいえば、スルガ銀行・オリックス銀行あたりです。この2行は融資期間の原則を緩和して、法定耐用年数を大きく超える融資期間を設定するため、キャッシュフローが出やすくなり、結果、多くの不動産投資家が融資を受けることが出来るようになりました。

この2行以外にも、信金やノンバンク系の金融機関もあり、いずれも少し特殊な条件で不動産に融資してくれます。この手の情報は、インターネットで小一時間探すとあれこれ出てきます。

あとは先輩大家さんのセミナーや勉強会などに参加してみて、実際にどの金融機関でどのくらいの条件で融資を受けられたのか情報を集めてみるとよいでしょう。

注意 融資条件の変更は出口に直結する

過去にあった大きな変動は、スルガ銀行の融資基準変更。少し前ですが、2011年か2012年あたりに、スルガ銀行が急に木造物件への融資をストップしたことがあります。それ以降、鉄骨造かRC造しか融資しなくなったため、木造物件の流通が極端に減りました。

その結果、木造物件の価格は下落基調。スルガの受け皿として静岡銀行や、他の信金も名前が挙がったのですが、スルガ銀行ほどの取り扱いは難しかったようです。

ここで問題になったのが出口。これまで木造物件を買ってきた投資家さんが焦りました。売却しようにも、次の買い手の融資が付かないのです。これは、スルガ銀行ほど融資期間をとれないこと、スルガ銀行ほど取り扱いエリアが広くないことが要因です。

このように、融資基準が変わると、物件価格に大きな影響を与え、出口にも深刻な影響が出てくることを覚えておいてください。

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2K-online事務局

主に日本国内で活動する投資アドバイザー。宅地建物取引士。税理士法人を母体とするコンサルティングファームにて約10年勤務。相続税対策としての不動産活用と、資産形成のための不動産活用が得意分野。2013年から独立し、クローズドの会員組織(階層別)を設立・運営。