今回のテーマは、物件の売却。筆者の周りでも、ここ5年くらいの間で物件を売却する方が増えてきたと実感しています。「いつぐらいに売るのがよいでしょうか」という質問もいただきますが、売却に適したタイミングというのはどういう時でしょうか。
インターネットや書籍で調べてみると、物件を売却するタイミングについて多くの情報がありますが、大まかな方向性は大体一緒です。ただ、その中にもいくつか注意したい点があります。そこで今回は、よく言われる物件売却に適したタイミングについて解説いたします。所有する物件の売却について検討されている方は、是非ご参考にしてください。
よくある売却のタイミング(1)地価が上がっている時
まず挙げられるのが地価上がっているときです。路線価や公示地価が上がっているというニュースがあるときは、概ね不動産相場も上がっています。もちろんエリアにもよりますが、筆者の経験上、概ね間違っていないと思います。
ただし、相場に変動があってから地価に反映されるまでに少しタイムラグがあるので、急激な下落局面になったときには少し対処が遅れるのは注意が必要です。リーマンショック後の不動産相場下落が記憶に新しいところです。
また、個別の案件で見た場合には、マクロの相場の動きよりも、その物件にまつわる融資環境の方が大きな影響があるので、その点はご注意ください。例えば、中古木造物件に対する融資方針はよく変わることがあるのですが、それによって、中古木造物件の価格は大きく影響を受けます。
● 「一物四価」とは?
「一物四価(いちぶつよんか)」という言葉をご存知でしょうか。1つの土地に、4つの違った価格があることを、一物四価といいます。
地価を評価する場合に、時価(実勢価格)、公示地価(公示価格)、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額の4つの価格があることを表しています。
これは、地価を国や地方自治体、売主や買主などが、それぞれ違った視点や基準から評価しているためです。時価は実際に取り引きされた価格、公示地価は正常な価格として国土交通省が公示するもの。路線価や固定資産税評価額は、相続税や固定資産税などの税金の額を決めるときの基準となるものです。
物件の売買など不動産取引の際に直接的に関係するのは実勢価格である時価ですが、価格決定の要因として公示地価や路線価が参考として使われることもあります。
● 公的機関が公表する3つの地価
紛らわしいのですが、公表されている地価には、公示地価・基準地価・路線価と3つの種類があります。
「公示地価」は適正な地価の形成に役立てるために国(国土交通省)が公表しているもので、一般的な土地売買の際の指標や、公共事業の取得価格の基準となっています。
「基準地価」の目的は公示地価とほぼ同じで、調査の主体が都道府県となります。「路線価」は国税庁が相続税や贈与税の算出のために決めている土地の価格です。
この3つを表で整理すると以下のようになります。
公示地価 | 基準地価 | 路線価 | |
---|---|---|---|
調査主体 | 国(国土交通省土地鑑定委員会) | 都道府県 | 国税庁 |
価格の決め方 | 1地点につき不動産鑑定士2名以上による鑑定評価をもとに決定 | 1地点につき不動産鑑定士1名以上による鑑定評価をもとに決定 | 公示地価や売買実例価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額などをもとに決定 |
評価時期 | 毎年1月1日時点 | 毎年7月1日時点 | 毎年1月1日時点 |
発表時期 | 毎年3月下旬 | 毎年9月下旬 | 毎年7月1日 |
調査地点 | 「標準地」1m2当たりの価格 | 「基準地」1m2当たりの価格 | 路線(道路)に面する土地の1m2当たりの価格 |
よくある売却のタイミング(2)大規模修繕の前
次によくあるタイミングは大規模修繕の前。築15年を越えると大規模修繕・設備の交換などが必要となるタイミングでもあります。
大規模修繕には、大きな費用が掛かります。物件の構造・規模にもよりますが、木造1棟アパートであれば数百万円(10室未満のアパート)、RC造マンションであれば、2000万円~5000万円(エレベーターありの中規模マンション)くらいかかることもあります。
そのため、大規模修繕の費用を負担する前に売り抜けてしまおう、というオーナーが多くいらっしゃいます。実際、不動産オーナーの多くは、潜在的な大規模修繕の負担に不安を抱いている方が多いので、その懸念が顕在化する前に売り抜けてしまいたいという願望は強いようです。
逆に言えば、買う側にとって、中古のオーナーチェンジ物件は、買ってから間もなく大規模修繕が必要となるリスクを織り込んでおかなければならないので、その点は十分に留意する必要があります。
【参考記事】不動産投資・アパート経営と長期修繕 大規模修繕の費用はどのくらい?
よくある売却のタイミング(3)税負担が重くなった時
不動産投資で「デッドクロス」という言葉をご存知でしょうか。不動産投資では、物件を長く持つほど、税負担が重くなるということが知られています。その理由がこのデッドクロスという現象です。
ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を「デッドクロス」といいます。ローンの元金は経費として計上できないため、デッドクロスが到来すると帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、その利益に課される所得税額が増えるために純粋な利益は減少します。
元々のキャッシュフローが薄い場合、帳簿上は黒字でも、状況によってはキャッシュフローがマイナスに転じることもあります。資金繰りがつらくなるので、このデッドクロス到来のタイミングで不動産の売却を検討する方も多くいらっしゃいます。
ただ、これに関して言うと、筆者としては少し首をかしげるところもあります。
将来的に税負担が重くなるのはわかっているので、そもそもキャッシュフローの薄い物件を買わないように気を付けていただきたいところです。デッドクロスが来てキャッシュフローが危ういから売却する、というのではなく、高く売れるかどうか、という視点を堅持してほしいと思います。
よくある売却のタイミング(4)長期譲渡に切り替わるとき
これは個人で物件を所有している場合です。土地建物を売却した際、保有期間によって譲渡所得に対する税率が変わってきます。後述しますが、いわゆる長期譲渡となると、短期譲渡に比べ税金が約2分の1となりますので、それを待って物件の売却をする方が多いようです。
● 短期譲渡と長期譲渡
不動産を売却し利益が出た時には「譲渡所得税」が課されますが、譲渡所得税には「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」があります。
短期譲渡所得は譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものを指し税率は30%(住民税は9%)となります。
一方、長期譲渡所得譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもので税率は15%(住民税は5%)となります。
よく5年経てば長期譲渡になると勘違いする方も多いのですが、長期譲渡になるのは取得して5回以上、「1月1日」を迎えて売却した場合です。この点を間違えると大変なことになりますので、是非ご注意ください。
売却に最適なタイミング 買い手の融資を考える
ここまで、よく世間で言われる物件売却のタイミングについてまとめてきましたが、最後に筆者が考える売却に適したタイミングについて、以下で解説したいと思います。
● 売り時は多少高値でも買い手の融資が見込めるとき
物件を売却するタイミング。それは、買い手の融資が付きやすいときです。出口戦略の記事でも解説しましたが、売却を考える上で必須なのが融資の知識。
【参考記事】不動産投資の出口戦略 物件の売却価格を予測するには?
先に結論だけまとめておくと、次の買い手が見つかりやすい売却のタイミングは次の通り。
・RC造なら築12年以内(融資期間35年を見込める時)
・木造10年未満(オリックス銀で融資期間30年を見込める時)
RC造は都銀や地銀を使う想定で、融資期間35年を見込めること。これが大事です。不動産投資の融資期間は、法定耐用年数の範囲内。RCの法定耐用年数は47年なので、築12年で、ぎりぎり融資期間35年を狙えます。
木造は法定耐用年数22年で、その原則通りでは極端に融資期間が短くなってしまいます。そのため、不動産投資に積極的に融資してくれる金融機関、たとえばスルガ銀行やオリックス銀行などを想定することがセオリーです。
なぜ融資期間を長くすることが大事かと言えば、それは融資期間が長い方が家賃収入からのキャッシュフローを大きくできるからです。そして、キャッシュフローを見込める物件は高値で売れます。
そのため、融資期間が長く取れるうちに売却することが大事になります。
● 販売力のある仲介業者を探しておくのも大切
今回は物件売却のタイミングについての解説ですが、売却という点でいれば、販売力の強い仲介業者を探しておくことも重要です。
販売力のある業者さんは、高値で買ってくれるお客様を抱えていることがあります。そこに専任で物件の売却を任せると、仲介業者としては、両手(売り手と買い手)で仲介手数料をもらえるので、かなり力を入れて販売活動をしてくれます。
売却額にも結構差が出てきますので、是非高値で売ってくれる業者さんを探してみて下さい。
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